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ワンが何か言おうと口を開きあけた瞬間、それを遮るように突然ゼロが声を出した。

「い…今すぐ…引き返した方がいい」

乾いた声色でそう告げ俺の腕を引っ張るゼロに、皆ゼロの視線を辿る。

廊下の向こうから歩いてくる人物を確認するとベリーズは見る間に顔を白くし、俺の背中に身を隠すように張り付くとガタガタと震え始めた。

「…あれは誰を殺ってきた後なんだ?」

緊張した面持ちでそうワンに尋ねるシン・アベルにワンは硬直したまま口を開かなかった。

どうする?逃げるべきなのか?

だがこんな人数では奴が本気で追いかけて来たら直ぐに捕まってしまうだろう。

それに逃げる事で余計に奴を不愉快にさせる事も考えられる。


皆緊張し、体を強ばらせながら向こうからやってくる人物から目を離せないでいる中、1人だけ緊張と言う言葉を知らない人物がいた。

「あっ、猫さんだぁ。ロゼ〜」

満面の笑みで自分の存在をアピールするように大きく手を振るハイジを俺は反射的に殴った。

「いってぇ〜、何で殴るの兄ちゃんっ?!」

普段の奴ならまだしも、あの状態の奴に声をかけるハイジを、おそらくこの場にいる全員が驚愕したに違いない。


「お前…っな何、ロゼさんを気安く呼び捨てにしてんだよっ!?」

青い顔でそう言って乱暴にハイジの胸ぐらを掴むワンにハイジは顔をしかめた。

「何でって、ロゼが好きに呼んでいいって言ったんだもん。何なのもう…」

ハイジは不満そうに唇を噛み締め、ワンの体を押しのける。

ハイジはもう直ぐ側まで来ていたチェシャ猫の方を振り返ると目を丸めた。

そして慌ててチェシャ猫の方へと近寄った。

俺も直ぐに後を追おうとしたが、俺に助けを求めるように俺の体を捕らえるベリーズとゼロに動くのを躊躇ってしまう。

「どうしたのロゼ?!どこか怪我してるの?!」

顔と上半身を本来の肌の色がわからない位に血で真っ赤に染めているチェシャ猫を、ハイジは心配そうに見上げる。

チェシャ猫はそんなハイジを静かに見下ろすと感情の読み取れなかった表情を崩し、柔らかい笑みを浮かべた。

「…大丈夫だよハイジ。これ俺の血じゃねぇから」

わかっていた事とはいえ、チェシャ猫の口から直接吐き出されたその言葉は俺達の体を冷たくさせるのには十分だった。



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