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「お前はチェシャ猫とは違うって事を今日確信したからな。昨日よりもお前の事が好きになった」
優しい手つきで俺を抱き直し、そう言って俺の肩口に額を押し付けてくるエドアンに体温が著しく上昇して行くのが自分でもわかった。
日が過ぎるごとに俺を嫌いになると言うならわかる。
理由は数え切れない程に思い浮かんでくる位だ。
それなのにこの男は俺の事を昨日よりも好きになったと言う。
俺は動揺を無理矢理抑えつける為に深く息を吸い、静かにそれを吐き出す。
「理解できねぇよ。お前やっぱりどこか病気なんじゃ無いのか。そうでなければ何か裏があるとしか俺には思えねぇ」
例えエドアンが俺の言葉を肯定するような返事を返したとしても、軽く聞き流せるように俺は平常心を保つ。
だが、そんな俺に返って来た言葉は予想を反するものだった。
「今まで何て言われてきたのかは知らねぇけど、お前はもっと自分を好きになった方がいいと思うぜ?」
そんな事…俺に出来るわけがない。
好きになれるようないい所が無い人間にどうやって自分を好きになれって言うんだよ。
エドアンが何故そんな事を言うのか皆目見当もつかなかったがとてもじゃないがそんな事は出来そうに無かった。
「…俺がお前みたいに好かれるような人間だったら少しは好きになれるだろうな」
俺は若干の嫌みを込めてそう返事を返す。
必要とされ、好かれる術を持っている人間に俺の気持ちが分かるはずが無い。
「案外そうでも無いんだぜ?俺を嫌う奴は沢山いる」
「謙遜するな、俺はお前程いい奴を見たことがねぇよ」
俺がそう言うとエドアンは小さく自嘲気味に笑みを零した。
「そうだろうな。自分でも時々やり過ぎだって思う。けど…止められねぇんだよ」
エドアンの口振りは反射的に他人の為に行動を起こしてしまう自分を悔やむようなものだったが、
俺にはそれがまるでイイ奴である自分が偽りであると言っているように聞こえてならなかった。
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