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男は掴んでいた俺の手を乱暴に振りほどくとナイフを俺の頬に当てた。
5対2で人数で勝っておきながら尚且つナイフまで出してくるのか。
しかもこの様子じゃ他の奴もナイフを持っていそうだな。
俺が逆の立場ならもっと上手くやる自信がある。
自分がナイフを突きつける事で生まれるリスクなんて考えてすらないんだろうな。
「取り合えず、噂が本当かどうか確かめさせて貰おうか」
金属独特の冷たさを頬に感じながら俺は5人の囚人の正確な位置、動向や仕草から1人1人の本質を探る。
「妙な真似するなよ、弟のこの可愛い顔に傷がつくぜ」
案の定別の囚人もポケットからナイフを取り出しハイジにナイフを向けた。
別に問題ない。
今まで散々刃物を向けられ続けたハイジの事だ、ハイジがナイフの存在を認識さえしていれば頭で考えなくてもかわせる。
問題なのはナイフを突きつけられ追い詰められている事ではない。
俺はナイフを俺の首もとに移動させ俺の素顔を露わにさせようと手を伸ばしてくる目の前の囚人では無く、
直ぐ後ろのハイジに意識を集中させる。
「何で俺にナイフを向けるの?
…お兄さんも俺の事嫌いなの?」
落胆と寂しさを含ませたハイジの声色に俺の体に緊張が走る。
「…俺ね、好きになって欲しくてずっと一生懸命頑張ってたんだ。
だけど頑張っても駄目な事もあるって事をしっちゃったから諦める事にしたんだぁ。
…苦痛と恐怖しか俺に与えない愛情なんて俺いらない」
ハイジが動く気配が分かり、ナイフが俺の首を血に染めるかも知れないという可能性に臆する事無く俺は慌てて俺の眼鏡を外そうとしていた目の前の男を蹴り飛ばした。
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