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「もういいよー兄ちゃん」
ご機嫌な顔でタオルを振り回しているハイジの表情から曇りは完全に消えていて、俺は胸をなで下ろした。
俺はハイジからタオルを奪い取り、ポタポタと雫を床に落としているハイジの髪を乱暴に乾かしてやる。
イタいよ兄ちゃんっ、と嫌がるハイジに力を加減してやっていると、ハイジの背後から俺達に熱い視線を送るベリーズの姿が視界に入った。
「どうかしたか?」
「いいえっ、別に」
激しく首を横に振り慌てて平静を装うベリーズを不思議に思っていると、エドアンがベリーズの頭に手を乗せ優しい手つきでベリーズの頭を撫でた。
「羨ましかったんだろ?ハイジが」
エドアンのその問いにベリーズは恥ずかしそうに小さく頷いた。
「羨ましい?ハイジがか?」
「正確にはお前とハイジがな。刑務所の中に自分の家族が居る奴なんてまず居ねぇからな。
ここに居るほとんどの奴が家族の愛情に飢えてんだよ」
なる程な…だからか。
ここにいるほとんどの奴が…って事はエドアンもそうなんだろうか…。
俺は何か考えさせられるものが有り、ベリーズにこっちに来るように合図した。
不思議そうな顔をして俺の元にやって来たベリーズの頭にタオルを被せた。
「っうわ?!何ですか?!」
「俺なんかの愛情で良ければいくらでもくれてやる」
俺がそう言うとベリーズの大きくて丸い目がこれでもかと言うほどに見開かれた。
照れくさそうにタオルを引っ張って顔を隠すベリーズがどんな顔をしているのかはわからなかったがタオルの下から覗く口元は緩んでいた。
「兄ちゃんの愛情は結構ハードだよ〜?」
俺の手から逃れ髪を整えながらそんなぼやきを零すハイジの言葉を軽く聞き流しベリーズの髪もハイジ同様に乾かしてやる。
「ぎゃっ!!イタいっ、ラクハさん痛いですって!!」
「…うぜぇなぁ。男だろ騒ぐな」
「ちょっ?!ハイジさん今の聞きましたっ?!
うざいなんてあんまりです!!」
「男だって痛いもんは痛いよねー?」
意気投合してギャイギャイと騒ぐ2人にため息をついていると俺達の様子を見ていたエドアンと目が合った。
慈愛に満ちた目をして俺に優しい笑みを向けるエドアンに気恥ずかしさを覚え俺はエドアンから視線をそらした。
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