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「…本物みたいに綺麗だ。どうしたんだこれ。その様子じゃリズみたいに自分から彫ったって感じじゃねぇな」
エドアンの指が背中を滑る度に反応する自分の体に苛立ってくる。
質問に答えずに言い淀んでいると背中に指先ではない別のものが触れた。
「…エドアン…っ」
何度も触れては離れていくそれに体が泡立ち、逃れようとするがエドアンに腰をがっちりと腕で固定されていて逃げられない。
「言えよ、親友にはなってくれるんだろ?」
「背中にキスする親友なんか聞いた事ねぇぞ俺は…っ」
「話したら止めてやるよ」
エドアンのその言葉に俺は仕方なく話す事にした。
親友と言う言葉を出されたら承諾した以上エドアンを蹴り飛ばす訳にもいかない。
「…俺の母親は彫り師だったんだよ。俺が5才の時にこれを彫られた」
「変わった母親だな。白い羽根なら分かるが、息子の背中に悪魔のような黒い羽根を彫るなんていい趣味じゃねぇな。何か理由が有るのか?」
「…逆らったんだよ。毎日毎日お前は悪魔だって言われて、それが嫌で俺は悪魔じゃないと言ったらこれを彫られた」
俺がそう言って話すのを止めるとエドアンは俺を拘束していた腕を解いた。
「お前の母親は多分俺の住んでた所の人間と同じ病気だ」
「病気?」
意外なエドアンの反応に驚き、後ろを振り向くとエドアンは困ったように笑った。
「あぁ。その名も、自分と異なるものを受け入れられない病だ」
参るよな、と肩をすくめて何でも無い事のように言うエドアンに俺は不思議な気持ちになる。
「羽根が黒くたってお前は悪魔じゃねぇよ」
意味がわからず眉を寄せる俺にエドアンは俺に後ろを向かせ再び背中に指を滑らせる。
「知ってるか、ここん所ハートになってんの。
例えお前が悪魔だとしても限り無く天使に近い悪魔だろうな」
冗談めいた声色で俺の背中に指をハート型になぞらせるエドアンに目頭が熱くなるのが分かり、俺は先に行ってる、とエドアンに背を向けたまま素っ気なく告げると浴室に入った。
お前は悪魔じゃないと言うエドアンの言葉は確実に俺が聞きたかった言葉で。
込み上げてくるものを無理矢理押し殺すように俺は浴室の扉の前で深く息を吐いた。
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