112 アイツの顔を思い出すだけで虫酸が走る。 母さんに包丁でお腹を刺されて本気で殺されかけた時。 真っ青な顔をして震える手で応急措置をしてくれる兄ちゃんの手の温度をボンヤリする頭で感じながら、 俺は俺を心配してくれる兄ちゃんに幸せを感じていたんだ。 直ぐに訪れる俺を闇へと突き落とす絶望を俺はまだ知る筈もなかったから。 俺に沢山の恐怖と苦痛を与え続け、殺そうとした母さんよりもアンタの顔の方がより鮮明に覚えているのは何でだろう。 「理解出来ねぇ…自分の親を殺すなんてイカれた奴の考えてる事が」 侮蔑と軽蔑を含ませた声色が耳に飛び込んで来た。 自分がイかれてるって事くらいちゃんと自覚してる。 「わかる訳ないよ、誰にもね。俺の事を理解出来るのはこの世でたった1人だけ、兄ちゃんしかいないんだ」 俺がおじさんから視線を外し俺に声を掛けた囚人の顔をマジマジと見つめそう返すとその囚人は顔を強張らせた。 「そういやぁ…お前ら親殺してDark holeに収容されたって言ってたな」 俺の事をあれこれと言い始めた囚人さん達とは違ってノアのおじさんには俺を軽蔑するような素振りは見られなかった。 それだけじゃなくて寧ろ喜んでいるように見えるのは俺の気のせいかな? 俺を膝に乗せたまま俺の服を脱がそうと黒いインナーの中に手を入れてくるおじさんに俺は慌てる。 「ちょっ、ちょっと!! それは駄目だっておじさんっ!!後悔するよ?!」 「何だよ、やっぱり怖いのかハイジ」 バタバタと暴れる俺を簡単に抑えこんで楽しそうにそう言うおじさんは俺を脱がそうとするのを止めない。 怖いとかじゃなくて嫌なんだ。 …だって見たら絶対皆俺の嫌な顔するんだもん。 俺の言うことを無視して俺の着ていたジャケットとインナーを脱がせ俺を上半身裸にしたノアのおじさんは息を飲んで固まった。 そしておじさんを煽る声や俺を非難する声も止んだ。 水を打ったように静まり返り、俺の体に突き刺さる視線から伝わってくるのはただ1つ。 憐れみだ。 「…悪い、そんなつもりじゃなかったんだ」 さっき俺を理解出来ないと言った囚人が今は憐れみの目で俺を見つめている。 「そんな目で俺を見ないでよ。殺意が芽生えちゃうじゃん」 俺がそう言うと怖いもの見たさなのか何なのか俺の剥き出しの上半身を見ていた囚人達はワザとらしく顔を背けた。 BackNext [戻る] |