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短編小説
再会 another 3
「ヒュー!」
「シセル!」
「おじいちゃん!」



異なる場所で、奇しくも同時に声が上がっていた。

ちなみに、それぞれ奇声声を上げたのは
 なのは→高町家
 はやて→八神家
 フェイト→テスタロッサ&桐原家
である。


が、当然のように返事は無かった。

いや、


「なのは、入って来るなり叫んでどうしたの?」


高町家には在宅していた美由紀がいた。


「お姉ちゃんヒューは!?ヒューどこ!」

「ちょ、ちょっとなのは!?」


突然縋りつかれ怒鳴られ訳の分からない美由紀。ご愁傷様です。





「翔君なら、なのは達に会いに行ったでしょう?わたし達、ちゃんとなのはの職場の名前、えーと、古代なんとか六課っての教えたよ」


何とか(少しだけ)落ち着けたなのはに美由紀は言う。っていうか、美由紀さん、職場の名前が問題ありです。

まあ、きちんとメモをしていた桃子が教えたので大丈夫だったのだが…


「あれって、やっぱりヒューだったんだ……」


だが、美由紀の話を聞いたなのはが最初に思ったのはそれだった。


「?翔君説明してくれたでしょう?姿も歳も全然違うんだし、説明無いと分からないんだから。
 いやー。わたし達も最初分からなくて、昔あった事とか話してもらっちゃったからそのまま昔話になってさー。すっごく懐かしかったよ」


当然再会は果たしていると思っている美由紀は笑いながら話す。


「あ、うん。わたしちょっと、翠屋行くね。はやてちゃんとフェイトちゃんと待ち合わせしてるし」


続きそうな話を遮り、なのはは高町家を後にした。


「なんであんな落ち込んでるんだろ?」

美由紀が首を捻るほど暗い影を背負いトボトボと……




「あ!女の子だったからか」


うんうんと頷く美由紀は……………ボケ担当?






カランカラン


「いらっしゃいませ。申し訳ありませんが、本日はもう閉店なのでお持ち帰りのみとさせて頂いてますがよろしいでしょうか?」

「へ?」


翠屋のドアを開けた途端掛けられた言葉に、なのはは我ながら間抜けな声を漏らした。


「え?あの」

「本日は「なのは?」


呆然としたなのはに同じ説明を繰り返そうとした店員の言葉を遮る声。


「桃子さん」
「あ、会った事無かったわね。この子は娘のなのはよ」


振り返った店員に笑顔で告げたのはなのはとよく似た容姿を持つ女性。高町桃子だ。

ちなみに、最初に出て来た店員は最近入ったアルバイトであり、なのはと顔を合わせたことが無かったので分からなかったのだ。


「なのは。はやてちゃんとフェイトちゃんはもう来てるわよ」

「あ、うん。ありがとうお母さん」


桃子が視線で示した先、現在翠屋で客がいる唯一のテーブルと座っている女性客2人がいた。


「はやてちゃん、フェイトちゃん」

「「なのは(ちゃん)」」


なのはの呼び掛けに俯いていた顔を上げた2人は、いや、顔を合わせた3人は、互いの(暗い)表情で結果が分かってしまい言葉が続かなかった。


「…遅れとったけどどうしたん?」

「お姉ちゃんがいて、ちょっと話してた」


最初に口を開いたはやての声も、それに答えたなのはも声も、拭いようがないほど暗かった。


「美由紀さんが………!何か聞けなかった?」

「せや。アンちゃんの事、なんか言ってなかった?」


気が付いて顔を上げたフェイトの言葉に、ハッとして顔を上げるはやて。2人の視線の先のなのはは……


「機動六課の名前教えたから会いに行ったでしょう?って」


俯いたまま搾り出すように答えた。


「あの人、やっぱりアンちゃんやったん……?……」
「…そんな…」


その言葉に、愕然として呟くはやてとフェイト。

2人とも、いや、なのはも含めた3人とも、「さよなら」と言って消えた人物が翔じゃないと思いたかったから。違う事を祈って、願っていたから。





そこだけ(確かに照らしている室内照明の明かりさえ遮って)日陰のような暗さに差し込む一条の光。


「暗いわね〜 はい。コーヒー」


というには大袈裟かもしれないが、桃子が3人分のコーヒーをテーブルに置く。


「お母さん、今日はもうお店閉めるみたいだけど、どうかしたの?」


ぼんやりと、それでも礼を言ってコーヒーに手を伸ばしたはやてとフェイトを(こちらもぼんやりと)眺めながら、なのはがふと母を見上げて尋ねる。


「あ、せやったら、わたしら来たん迷惑でしたよね」
「ごめんなさい」

「気にしないで。なのはだけじゃなく、はやてちゃんとフェイトちゃんも大切な娘なんだから。会えるのは嬉しいのよ。暗く沈んでても、ね」


最後だけは茶化すようにウインク付きだったが、その御茶目さも含めて違和感を感じない容姿と雰囲気はある意味恐ろしい。

だが、そんな桃子の優しさと明るさに3人は少しだけ救われる。

そして3人は顔を見合わせ1つ頷くと、


「あ、あの、桃子さん」


代表するようにはやてが口を開いた。
3人共に共通する、真剣な顔で。


「なにかしら?」

「あ、アンちゃん、アンちゃんて、生まれてるんですか?」

「ええ。1年前に「生まれた」ってシセル達が教えてくれたけど、聞かなかった?」


アッサリと肯定して続けられた桃子の言葉に、


「あ……半年くらい前にシセルが「半年前に生まれた」て言うてた」
…3・4…8ヶ月前におじいちゃんが言ってた…」
「よ、4ヶ月前に、お母さん達から…」


記憶を探った3人はハッとして、それから俯いた。

なんせ


「どれだけ帰ってないか良く分かる台詞ねぇ」


溜息と共に桃子が言った通りで、(更に桃子に念押しされて)胸に突き刺さったから。


「あ、その、せやったら、桃子さんはアンちゃんに会いました?」


それでも搾り出したはやての問いを


「…ええ」


桃子は短く肯定した。

問いを肯定されたはやては、いや、3人は、予想はしていてもはっきりと確認できてしまった事で、俯いた。





だから気が付かなかった。





肯定した桃子が、先程までの柔らかな笑顔ではなく、3人に負けず劣らずの真剣な顔をしている事に。


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あきゅろす。
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