短編小説
再会 another 1
「まさか管理局とは」
溜息と共にそう呟くと、すっぽりとフードを被りローブを纏ったその人物は見上げていた建物に入っていった。
◇
「すみません。こちらは古代遺物管理部機動六課であってますか?」
入ってすぐの、受付(らしき)場所で尋ねるその人物。すっぽり被ったフードで口元しか見えないのではっきり言って怪しい。
が、ここは様々な世界の住人を目にする事が出来るミッドチルダである。その程度の事では不審人物にはならない。
「はい、そうですが。なにか?」
「高町なのは、八神はやて、フェイト・テスタロッサはこちらにいますか?会いたいんですけど」
事実、奇異の視線を向ける事無く笑顔で対応したその女性は、出てきた名前の意外さに(だって憧れによる面会希望者が持っている熱のようなものは感じられない)動きが止まった。
しかも居るのかどうかを確認した時の声の調子だと、この六課の主要人物だとは思っていない感じを受けるだけに彼女の混乱は増していた。
そんな彼女に言える言葉はこれ──「この時この場に居た事を悔いてくれ」──だけだろう。
◇
「ん?」
「どっか行ってたのか?」
「外回りの帰りだ。お前は…訓練は終わったのか?」
六課前、ザフィーラ・ヴィータ・シグナムの3人(2人と一匹?)が顔を合わせていた。
事情は上の通りである。あえて加えるならザフィーラは見回り悪く言えは散歩である。
そして中に入った3人は、そこに立つローブにフードの人物の後姿に目を留めた。どこかホッとしたような女性の顔は見間違いだ。
「ん?ああ、ヴォルケンリッターか」
そして振り返ったローブの人物は、驚く事無くそう口にした。ちなみに、その声は幼く中世的な、だがあえて言うなら女性のような声だった。
「テメー 誰だ?」
ムッとしたようにヴィータが尋ね、シグナムは目を細め、ザフィーラも無言のまま僅かに身構えている。
そんな3人の警戒に気づきながらも、その人物は何も変わらず向き合い、スッとフードを背に落とす。
それによって流れた純白の髪は背の中ほどまであり、白い肌と紫の瞳、整った顔によってどこか幻想的な雰囲気さえ備えた、十代中頃の少女がそこにいた。
が、その幻想的ともいえる空気より何より、その姿に、3人は思い出せない“何か”を刺激されていた。
「君達がいるということはここで合っていたんだね」
「テメー誰だ!」
分からぬ“何か”を刺激され、苛立つヴィータが声を荒げる。
「分からないか。なら、これなら分かる?あなた達が勝ったらリンカーコアをあげる。わたしが勝ったら一晩付き合って。けど、男に興味ないから君はいらない」
「貴様か」
「テメーかよ」
「今度は女か。だが、女性でその言葉は拙くないか?」
が、全く慌てる事なく紡がれた言葉に、3人の肩の力が抜ける。
「分かってくれて嬉しいよ。
さて、ヴォルケンリッター、君達の主に会いに来た。会わせてくれる?」
にっこりと笑った少女の笑顔と言葉。何もおかしくはない。無いはずなのだが
「君達の主に会いに来た。会わせてくれる?」
そう言って微笑んだ、白髪紫瞳の女性。
当時の主の命令で、その女性のリンカーコアを狙い。失敗が続いていた。
そんな中、やってきた彼女は自分達に何の含みも無く微笑んだ。
「いい加減、狙われるのは面倒だから交渉に来たの」
そう言って笑う彼女に戸惑ったのを覚えている。
「自分から来るとは、観念したか」
そして現れたのは**の書を持った主
「まさか。面倒になってきたからそろそろ諦めない?って言いに来たのよ」
彼女は気負いもせずに、ただ本心から「面倒だ」と言った。
「大体、元から興味無かったんだから振られた腹いせに狙うのは止めてくれないかな。元から大した事無かった人間性が、ソレを手にしてからの君は下劣・愚かの底への道を一直線。もう興味を抱くどころか問題外もいいところなんだから、いい加減わたしに関わるの止めてくれない?」
そして柔らかな笑顔から出てきたとは思えない痛烈な言葉。
交渉しに来たと言ってなかったか?
「なにしてる!お前等さっさとあいつを殺せ!」
主の顔は真っ赤になり、怒鳴った。
命令を受け我らは向かい───
「彼女達は“良い女”だったから、折角チャンスをあげたのに」
───彼女の方が速かった。
彼女の魔力が主の首と胴を切断し、返り血さえ避けた彼女は冷酷に笑っていた。
純白の髪と紫の瞳の彼女は
浮かんだ光景と彼女の姿、そして言葉。
時間としては一瞬だったのだろう、だがそれに反して長かった光景。かつての記憶。
殺された主
「させん、させんぞ!」
シグナムの叫びを合図に、己の相棒=デバイスを構えるシグナムとヴィータ。ザフィーラは人型となり構えている。
◇
ドカンッ
「な、なんや!?」
突然響いた爆発音と振動に、はやては顔を上げ立ち上がる。
同じ時、己の執務室にて書類を纏めていた執務官──フェイト──と、訓練場にて己の生徒たちを見つめていた教導官──なのは──も爆発音を捉え向かっていた。
そして目にした光景──騎士甲冑を纏いデバイスを構え殺気を纏う3人と対峙する、ボロボロのローブと血化粧を纏った少女?──に駆けつけた3人、いや、リインフォースU・シャマル・フォワード陣を含む全員が呆気に取られた。
「シグナム!ヴィータ!ザフィーラ!一体何なんや!!」
ハッと誰よりも早く現実へ立ち返ったはやてが怒鳴り、彼女の騎士たる3人の動きが止まる。
「……来たk「鋼の軛!」
が、少女?がはやて達に目を向けた瞬間に地面から突き出した幾本もの白い杭。
「させねえ!」[Schwalbefliegen]
飛び退いた少女?に向かってヴィータから打ち出される8球の鉄球。
ドカッ
爆発音が響き土煙が舞い上がる。
「レヴァンティン!」[Ja.Bogenform.]
レヴァンティンの形状が変化し弓なりとなり、シグナムはその弓を引きしぼる。
「駆けよ、隼」[Sturmfalken.]
ドン!
放たれる矢と的に当たったのだろう衝撃音が響き、衝撃によってだろう、土煙が晴れていく。
「え、…シセル…?」
「おじいちゃん…?」
「…ら、でぃあ?」
晴れた煙の中、増えていた無かったはずの人影と、その人物に、はやてが、フェイトが、なのはが、目を見張り呆然と呟いた。
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