短編小説 ならないと決定してるから書ける A’s編 「……あんたら、ダレや?」 病室に居たはずが、一瞬で風を受ける外──屋上──に移動していたはやては、目の前に立つ2人の少女を(必然的に)見上げながらも睨む。 「つめたいな」 「さっきまで会ってたじゃない」 「あんたらに会うんは初めてや」 磔にでもなったように浮かぶヴィータを挟むように浮かんでいる、酷薄な笑みを浮かべるなのはとフェイトの言葉を、キッと睨んではやては切り捨てる。 「なのはちゃんは物心付いた時から一緒におる、姉妹みたいなもんやし、フェイトちゃんはそれよりずーっと短いけど、なのはちゃんと同じ位大切な、やけどどっか抜けてるんで妹みたいな娘や。 そんな2人を、わたしが間違うはずない。姿似せたかて、ちゃんと解る。 あんたらはなのはちゃんとフェイトちゃんやない!会うたんも今初めてや!!」 「はやてちゃん…」 「はやて……嬉しいけど……なんか、素直に喜べない……」 「フェイトちゃん?」 「なのは…わたしって、そんなに抜けてる?」 「にゃ、にゃはははは……」 はやての言葉に、バインドとクリスタルゲージで閉じ込められ、聞いているしか出来ないなのはとフェイトは感激する。 “きちんと自分達を見分けてくれた”事に、 “大切だ”と言葉と態度で言い切ってくれた事に。 が、フェイトは内容にちょっと引っかかって俯き、感動と疑問が綯い交ぜになった表情で問いかけ。 問われた少女は笑って顔を逸らした。 「なのはぁ」(←涙目、というか泣きそう) 「い、今はコレ解こう!はやてちゃんの所行かなきゃ!」 「……うん」(←しぶしぶ頷く) 「やめてー!!」 大切な家族が消えた事を存在する服“だけ”によって示され、目の前で消されそうなヴィータに、はやては涙を流し叫ぶ。 が、 「ねえ、はやてちゃん」 「運命って、残酷なんだよ」 なのは?とフェイト?は酷薄な笑みを消す事無く、動きも止まらない。 目の前でヴィータを失ったはやては俯き泣いていて、 「はやてちゃん!」 「はやて!」 未だ捕らわれている2人の言葉ははやてに届かない。 「ぅああああああああああ!!!!!」 はやての喉は本人の意識しないままに声を張り上げ、その足元にはベルカ式を表す三角形の魔方陣が現れ回転している。 「ああああ!!」 「自分を失うな はやて」 高まる魔力が臨界を突破しようというその時、落ち着いた声が響き、背後から現れた腕がふわりとはやてを抱きしめる。 「あああああぁぁぁ……あ、んちゃ、ん?」 「ああ。遅くなって済まなかった。はやて」 「ちっ 邪魔を」 「するなぁーー!!」 抱きしめ、詫びる翔に攻撃を仕掛けようとするなのは?とフェイト? ドンッ 「!」 「いつのまに!?」 そんな2人の行く手を阻み、2人を囲み閉じ込めている透明な檻。 「人の愛し児達に、随分と好き勝手してくれたようだね?」 抱きしめたはやてを放さぬまま、ゆっくりと翔は透明な檻へ身体ごと向く。 「それにその姿。僕の愛し児達を貶してるの? それとも、俺に殺されたいのか?」 背筋に寒気が走る、それでも笑みだったものが、最後の言葉と共に消え、髪が逆立つほどの殺気と魔力が翔から噴出す。 それでも、はやてに何の影響も無い辺りが翔らしいが。 「フンッ」 パリンッ 小さな気合と共に何かの割れる音が響き、捕らわれていた2人の姫が解放される。 「「おじいちゃん!」」 「無事で何よりじゃ」 開放された少女達の呼び声に、人民服を着た猿?は顔を綻ばせる。 「さ、己の行くべき場所へ行きなさい」 「おじいちゃんは?」 「フューグがあれほど怒っていては、わしの出番はないじゃろ。まあ、必要ならすぐに来るでの。2人は2人のやるべき事をしなさい」 「はい」 「ありがとうおじいちゃん」 礼を言い、2人の少女は大切ね家族の下へ飛び立つ。 「なのは、フェイト、無事で何より」 飛んで来たなのはとフェイトを、はやてと一緒にコートで包んで抱きしめる。 「さて、好い加減にその愛し児達を侮辱する下手な仮装を止めてもらえるかな? そのままだと、苛立ちのままに“つい”挽肉にしてしまいそうだ」 腕の中の子供達に向けるのとは正反対の、冷たく鋭い眼差しが透明な檻に捕らわれたなのは?とフェイト?へ向けられる。 「「くっ」」 その言葉が偽りではない事を示すように、一回りほど小さくなった檻に、少女の姿が仮面をつけた青年の姿に変わる。 「ア、アンちゃん、ヴィータが、シグナム達が…」 「それが愛し児の望みなら叶えるよ」 青白い顔で涙を流すはやての頭を撫で、翔は言う。 「ローズ」 [アクセスするけど平気かしら?大丈夫なら、任せて頂戴] 「はやて、少し痛くて疲れるかもしれないけど、良いかな?」 「皆とまた会えるんなら、痛いんでも何でも我慢する。お願いや。アンちゃん、ローズ」 「なら、これに手を置いて。それとこれ」 「同調装置?」 「ローズもアクセスするからね」 良く分からないながらも、翔とローズを全面的に信じているはやては渡されたバイザータイプの同調装置をかける。 [見つけた。………守護騎士のプログラムと管制人格のプログラムのコピー完了。ついでに容姿の書き換えも終了。良いわよ、エル] 「リンカーコア摘出」 「うあっ」 「はやてちゃん!」 「はやて!」 なのはとフェイトが見守る中、はやての胸から光る球体──リンカーコア──が出てくるが、その光には黒い触手のようなものが幾本も絡みつき、中へ入ろうとしている。 「端末切断。保護」 が、その触手を切り離し、切られながらも絡み付いている触手ごとリンカーコアを翔は両手で包む。 「はやて、気絶して良いからね。なのは、フェイト、はやてを支えて」 「だ、い、じょうぶ、や」 「はい」 「うん」 3人の返事に、翔は笑顔を見せると一転真剣な顔になる。 「探査針投下 侵食端末破壊除去」 「ぐぅ……ぁ、ぁぁああ……」 「はやてちゃん!」 「はやて!」 「だ、ぅぁ…い、じょ…ぅ、ぶ、や……ま、けへ、ん……ああ!!」 「終了」 翔が手を放すと、触手も侵食も何も無い、きれいなリンカーコアが現れ、はやての胸に戻っていく。 「さて、後は暴走を待つばかりの、この書が欲しいんだったね? あげるよ。愛し児達が世話になったお礼も兼ねて、ね」 闇の書を手に取った翔は仮面の青年に言う、その顔は惚れ惚れするような、なのに寒気しか催さない、笑顔。 「シセル・ラディア」 「「ここに」」 「これをアレラの飼い主、グレアムとかいったか、の元へ持って行き、結界を解いて囲え。暴走の核となる人間を欲しているコイツの事だ、奴等の飼い主しか居なければソイツを核とするだろう」 「「!?」」 檻の中で息を呑む気配がするが、それに構うものは居ない。 「核になったら囲った結界も解いておいで。入れ替わりに、アレラを送るから」 「「承知しました」」 頭を下げると同時に、シセルとラディアの姿が仮面をつけた青髪の青年の姿になる。 「聞いた通りだ。お前達は飼い主のところにきちんと戻してやる」 「「誰がお前なんかの思い通りに!」」 仮面の青年たちは檻を抜け・壊そうとするが一向に変わらない。 そして、 「さあ、飼い主の所へ戻るんだな」 檻ごと青年達の姿は消えた。 「アンちゃん。シグナムたち…」 「プログラムはローズがコピーした。今頃データを別のユニゾンデバイスに転写してるから、すぐに新たな、無害な書の守護騎士として会える」 「ホンマに?」 「ああ」 [ええ。本型のユニゾンデバイスは準備してあったから、後一時間程で転写も終わるわ。きちんと会わせて上げるから、私の腕を信じなさい] 「うん。ローズとアンちゃんなら安心や」 心配が無くなった安堵感と、性急な事態の変異に、緊張し興奮していた精神が落ち着き、はやては涙を流す。 「さ、ここは冷える。クリスマスの準備も終わってるし、帰ったらパーティーだよ。3人とも」 こうして守護者とその愛し児達は家へ帰り、楽しいクリスマスを過ごした。 一方 「あれはなんだ!」 「突然転移されてきました!」 「検索該当有り、!?ロストロギア、闇の書です!!」 どこかの次元では壊滅的な被害を受けていたようだが………………関係の無い話である。 備考 ギル・グレアム提督が闇の書を手に取り暴走させる場面と、その書を提督の元へ持ってきた2人の青年が提督の使い魔へ戻る場面が記録されていた。 また、闇の書を提督の元へ持って来た青年達は、守護騎士の捕獲を何度と無く妨害し、蒐集に協力していた事も明らかになった。 結果、ギル・グレアム提督は管理局の反抗と破壊をもくろんだ闇の書の主として記録される。 [前へ][次へ] [戻る] |