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無限者の一時
第32話
「はやてちゃん大丈夫?」
「飛んでるだけやし大丈夫や」


心配そうに隣を見るなのはに朗らかな笑顔で告げるはやて。


「お帰り」


そんな2人(入場は当然窓から)を迎えたのはやはりというべきか当然というべきか、翔だった。


「「ただいま、ヒュー(アンちゃん)」」


広げられた腕の中、飛行魔法を解いた少女達は落ちる事無く少年の腕に支えられる。


「バリアジャケット解除して」


1人下ろされて頬を膨らませたなのはは、掛けられた言葉にバリアジャケットを即座に解除し(腕を伸ばして)再び抱えられ笑顔を見せる。


「……なんも訊かんの?」

「話してくれるなら聞くよ。けど、言いたくないなら言わなくて良い」


そして腕の中、おずおずと尋ねたはやてに柔らかな、包み込むような笑顔で翔は答える。


「もう遅いから寝なさい。と言いたいところだけど、はやて、怪我はどうする?」

「気づいとったん?」

「当然。それでどうする?」

「ヒュー どうするってどういう事?」

「ローズに診てもらってポッドに入るか、僕が治すかだよ」

「ポッド入ったら時間掛からへん?」

「それ位なら朝までには治るよ」

「それくらいって、ヒューはやてちゃんの怪我分かるの?」

「見た感じだと肋骨かな?子供は骨柔らかいから折れるより罅入ってる方が多いと思う。それでも1・2本は折れてるかな?」

「痛いはずやなー」


翔の言葉に暢気に笑うはやてと


「………大丈夫じゃないじゃない!」


ポカンとしていたなのはは、翔の言葉を飲み込んだのか声を上げた。


「そこまで。もう遅いんだし、皆起きちゃうからお説教は起きてからにして」


更に言い募ろうとするなのはを止めたのは翔だが、その言葉に「アンちゃーん、それフォローになってへん」とこぼした少女がいたがスルー。


「それではやて、どうする?」

「アンちゃんお願い。折角旅行来とんのに別ん所で寝とーない」

「分かった」


頷くとはやてを床に下ろし(魔法使わないと立てないはやては座っています)、翔は数歩下がる。
はやてもなのはも慣れたもので(なぜ慣れているのかは触れてはいけない)何も問う事無くじっとしている。

そんな2人の視線の先、立ったままの翔がかざした右手から白い光に縁取りされた青い帯が無数に出て来てはやてを包む。


「キレー」
「何度も見てるだろう?」
「うん。けど、いっつも綺麗って思うの」
「これはもっぱら治療用だから、あまり見ることがない方が良いんだけどね」
「けどキレーだもん。今度、やり方教えて?」

「ん、終わり」


なのはの願いに答える前に翔が呟き、はやてを包んでいた光の帯が光の粒子になって空気中へ消えていく。


「あー気持ち良いわ。痛いんものうなったし。あん中居るとめっちゃ気持ちええんよねー。光っとるのに目痛くならへんし。気持ち良うて眠たなる」


空気中へと消えていく光の粒子たちの中、姿を現したはやてはその呟き通り緩んだ表情で眠そうに目をこすっていた。


「もう遅いからね。戦闘して精神的にも疲れてるだろうし、もう寝なさい」

「「は〜い」」


翔の言葉に素直に頷くなのはとはやて。まあ直後に「アンちゃん抱っこ」「なのはも!」といういつも通りのやり取りはあったが。





「怪我も治しましたし、2人は大丈夫ですよ」


疲れていたのだろう。布団に入ると直ぐに眠りについた2人の少女の間から抜け出していた少年は、静かに襖を開閉し布団の敷かれた部屋を出ると小声で言った。


「やはり気づいてたかい」


スッと静かに襖が開かれ、入ってきたのは士郎と恭也。さり気なく美由紀と忍、ノエルもいたりする。


「ええ。2人には気配を消すなんて教えてませんから。士郎さん達なら気づくと思ってました。
 忍さんノエルさん、起こしてしまってすみません」


士郎の言葉に頷くと、意図していなかった忍とノエルに翔は頭を下げる。


「教えてない?戦闘なら気配を消すのは大事だろう。なぜだ?」

「そこまでいってません。きちんと始めてどれ位だと思ってるんです?身体を動かす事を教えて体力つけること、戦闘時の動き方と考え方を教え始めたばかりです。気配まで気を配るのはまだまだ先です。
 まあ、空戦ですし、派手ですし、気配消さなくても大丈夫ですからね。今のところは」


「勝手に起きたんだから気にしなくて良いよ」という忍とノエルをスルーして恭也が尋ね(スルーした事で忍から突っ込みを後頭部に喰らっていたが…)、翔は(忍達に軽く頭を下げ感謝の意を示してから)答える。


「治療していたが、怪我はどうだったんだい?」

「肋骨5本罅で1本折れてました。内臓には影響はありません。それと、もう完治しているので心配はいりません。
 状態的に、何かがぶつかったみたいですね。気になるなら、2人が話してくれた時にまたレイジングハートの記録でも見せてもらいましょう」

「こちらからは訊くな、という事かな?」

「ええ。士郎さん達は完全な“なのはとはやての味方”ですから。特に恭也さんははやてが怪我した事でイラついているでしょう?それであの子の事を責めたりしたら、なのはとはやては怒りますよ」

「そうだね。2人とも、友達になりたがっているからね。あの子も、決して悪い子には見えなかったし」


翔の言葉に納得して頷く士郎。あの時「友達になる」と、「なりたい」ではなく「なる」と宣言した2人が、その相手を責めるのを容認するとは思えない。
それに、理由を聞いてみなければあの子が全面的に悪いとも言えないような気が士郎にはしていた。(素晴らしい勘である)

まあ、少しだけ納得のいかない顔を恭也はしたが、士郎が認めてしまったので恭也に反論の余地は無い。下手に怒って(大事な)妹達に嫌われたりしたくないし。


「翔君の言う通り、僕らは完全になのは達の味方だけど、君は違うのかい?」

「僕は愛し児達の味方ですよ」


士郎の言葉に“当然”とサラリと返す翔。何もおかしくないはずなのに、当人達以外の面々──恭也・美由紀・忍・ノエル──は違和感を感じて眉を寄せた。


「どこかに行くのかい?」

「はい。朝…しち、8時でも良いですか?」

「折角の旅行なんだから、なのは達が起きる時はいてやってくれないかな?6時で」

「分かりました」


士郎の言葉に頷くと翔は窓から飛び出し、空中で静止して窓を閉めると飛び去っていった。
律儀にも、「鍵はお願いします。朝は転移で戻りますので締めてて問題ないですから」と頭を下げて。


「さ、寝るか」

「翔君が出かけるって良く分かりましたね」


踵を返した士郎に、忍が感心したように声をかける。


「翔君は服を着たままだったからね」

「戻られたなのはお嬢様とはやてお嬢様をお迎えした時からです」

「なのは達に引きずられて最初に眠った時は浴衣だったからね。出かける気なんじゃないかと思ってたんだ」

「気づかなかった俺の観察力もまだまだという事か」
「翔君がきちんと服着てるのは違和感無いからね」


士郎の言葉に自省するように恭也が呟き、いつでもきちんとしている翔を思い出して美由紀はうんうん頷いている。
実際、美由紀と恭也は酔っ払って潰れた時以外翔が寝ているのを見た事が無い。それどころか寝起きも見た事が無い。
酔っ払って潰れていた時(恭也と美由紀が見たのは実は1回だけだ)と二日酔いの時以外は、何時だって翔はきちんと起きていて身支度だって済んでいるのだ。だらしない姿など上記以外見た事が無い。

だからこそ、服を着ていた翔に違和感を覚えなかったのだ。

だがなのはとはやてと眠った時は浴衣だった事を覚えていた士郎は違った。
恭也はそれを父と自分の差と捉えたのだ。まあ、事実だが。経験の差でもある。


そうして、予定に無かった起床をしてしまった一同も眠りについた。







「翔君の魔法って綺麗だったわね」
「はい。忍お嬢様」


───とある青年に頭痛の種を残して───









朝7時に桃子達が起こした時には、なのはとはやてはしっかり翔の布団でしがみついて寝ていた事を付け足しておく。

そんな娘達に士郎が呆れと関心をもって苦笑していた事も付け足しておこう。(だって、6時に翔が戻って来て布団に入った時は、確かに2人とも各々の布団に1人で寝ていたのだから)


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