無限者の一時 第6話 「ヒュー」 「アンちゃん」 同時に動きを止めた3人の内の2人が真ん中の1人を呼び 「「今のなに(なんや)?」」 問い掛けた瞬間も内容も、奇しくも同じだった。 「あ〜【なんか大きな魔力が発動したみたいだね】」 天を仰いでいた(両手は塞がっていたから顔だけ)翔が他の人間に聞こえないように念話で告げる。 【魔力て、大丈夫なん?】 意外な返答に目を見開き、すぐに心配そうにはやては問い掛け、 【ヒュー、また何か起こるの?】 なのはは心配そうに繋いでいる翔の手をギュッと握る。 【「また」って。なのはちゃん、なんかあったん?】 【うん。あ、でも内緒にするつもりは無くて、帰ったら話すつもりだったんだよ。ホントだよ!】 はやての問いに答えながら、結果的に仲間外れのような状態になっている事に気づき慌てるなのは。 【なのはちゃんがそんな事する子やないのはよう知っとるから、そんな心配せんでええよ】 そんななのはに、自分を思ってくれて慌てているのに気付いているからこそ自然と微笑みながらはやては言う。その笑みはとても嬉しそうだった。 「(あ〜 昨日のと同じような魔力だな。 ・・・・・・・・・なのはとはやての意識も逸れてるし、このまま無視して買い物行くか?・・・我ながら良い考えだ)」 1つ頷くととても満足そうな笑顔を浮かべる翔。けど考えてる事は結構酷い。 「ヒュー?」 「アンちゃん」 「どうしたの2人とも」 「「それはこっちの台詞(だよ)(や)」」 翔の不思議そうな問い掛けは同時に返された。 「何があったんかキリキリ白状しぃ」 2人顔を見合わせると、はやてが少しだけ目つきを鋭くして言う。その瞳は真っ直ぐに翔を見ていて、「誤魔化しは許さん」と言っている。 質問ははやてに任せていたが(だってはやての方が誤魔化されにくいのは散々経験済み)同じ気持ちなのか、真剣な、けどちょっとだけ(ちゃんと答えてくれないんじゃないかという)不安を含んだ瞳で見上げているのはなのはだ。 なのはとはやてが真剣な顔をしているのには訳がある。 2人は翔が優しいのを知っている。 だが同時に、 ―――冷たいのも知っている――― 翔は大切にしているのは「大事な人達」と「その人達の大事な人達」だけだ。それ以外の人達が大変な目に遭っていても、気が向けば助けるが基本的にはスルーする。理由は「どうでもいいから」だ。 「全てに優しくなんて無理。僕は自分が大切なものだけ大事にする」 そう公言している翔を知っている2人は、それを不満にも直して欲しいとも思っているが(けど無理と知っている)、同時に自分に優しい事を「自分は特別」と解っていて嬉しいとも感じている事を知っている。それが無くなるのは嫌だと思っている事も。 だから、周囲を見捨てようとする翔にはいち早く気付いて聞き出すと2人は決めているのだ。 ◇ 八束神社の長い石段を登っている3人の少年少女。まあ、1人の少女は少年に抱き上げられてだが。 「同じような魔力だから、多分昨日のがまだあって発動したんじゃないかな」 やっと聞き出した話に、昨夜の事をまだ聞いていないはやては首を傾げなのはは慌てた。 取り敢ずなのはの反応と翔の様子から、良い事ではないのを察したはやてはなのはと2人がかりのお願いでその場所を聞き出し移動しているのだ。 「「!」」 「あー、取り込んだ?取り憑いた?ま、どっちでも面倒なのは一緒か」 四つの目と鋭い凶悪な牙を持ち角を生やした黒く大きな獣が唸っているのと正面から向き合ってしまい息を呑むなのはとはやて。 翔は全く焦った様子はないが言葉通り「面倒臭い」とい全身から言っている。 「はやて、僕前出るから飛んで」 「うん!」 腕に付けているブレスレットに魔力を通し、はやては翔の腕からふわりと浮かび上がる。 このブレスレットは例の如く翔から渡されている物で、なのはと同じように魔力を蓄えるのと、緊急時の結界と転移の魔法が組み込まれている。だがもう一つ、足の不自由なはやての為に飛翔魔法も組み込まれている。 いちいち組み立てなければならないなのははそれを羨ましがっており、翔に自分もとお願いしようと思っているのは秘密だ。はやてが事情を知る人達の間では結構飛び回っているのは公然の秘密だ。 「ったく、誰に敵意向けてやがる」 憤慨したように呟きながら翔はなのはとはやての前に出る。 「ヒュー」 「大丈夫。心配ならレイジングハート起動させてバリアジャケット展開しておけば良いよ。っていうか、封印しなきゃいけないから起動させて」 「わかった」 不安そうななのはに振り返った翔の笑顔になのはは安心して制服の下からレイジングハートを取り出した。 が、 「起動ってどうやるの?」 「ん?…………………………………確か、起動パスワードだかを言えば良かったと思うけど?」 “最近の魔法には疎い”と本人も言っているだけあって記憶を探って言った翔の顔には珍しい事に自信は無かった。 「起動パスワードって、なに?」 だが、その答になのはは更に頭を捻る。 「さあ?それ渡された時に何か言われなかった?」 「えー・・・と、なんか長い言葉言ったような気がする」 「じゃ、多分それだよ」 「えぇーー!!覚えてないよ!」 なのはが声を上げる。 「んじゃ、レイジングハートに念話叩き込んで起こしたら?AI積んでるんだし、そいつはなのはを護るって僕に約束したんだから。起きなかったら叩き壊す。 っと、うっさい」 向かってきた黒い獣に向かって翳した翔の手と獣との間に青く色づいた半透明の曲面が現れ獣を弾き飛ばす。 「は〜、相変わらずアンちゃんの魔法は凄いなー」 「なのは」 「うん。<レイジングハート、お願い!>」 感心するはやてにヒラヒラと手を振ってなのはに振り返る翔。その翔の言葉に頷くとなのはは握り締めたレイジングハートに念話を送る。ふと、自分が念話で翔に起こされた時を思い出したが気のせいだと頭を振って。 [stand by ready.set up.] レイジングハートの声が響き赤い宝石はなのはの「魔法の杖」となる。 「起きたかレイジングハート。やる事はわかるな?」 [Yes.barrier jacket.] 翔の言葉に答えレイジングハートが光りなのはの服が制服から制服に似たバリアジャケットへ変化する。 「おお!なのはちゃん何時の間に魔法少女に!?」 「魔法少女って・・・はやてちゃんだってそうじゃない」 「わたしは変身なんて出来んもん」 空中に(なのはより頭1つ分高いだけだけど)浮かんでいるはやてとなのはは言葉を交わす。どこか漫才っぽいのは気のせいだ。 と、翔の魔法で弾き飛ばされた獣が正面からでは分が悪いと思ったのか、鳥居の上に飛び乗り勢いを付けて襲いかかる。 「わわっ!」 「にゃあ!」 パチパチッ はやては翔に叩き込まれたシールドを咄嗟に張り、なのはもはやてと同じシールドを張って前夜と同じくレイジングハートの張ったシールドと干渉しあう。 焦る2人とは別に動く者がいる。 「誰に向かっているつもりだ?」 ドンッ 暗い声と共に大きな音が響き獣は吹き飛ばされる。 「ヒュー」 「アンちゃん」 そこに浮かんでいるのは眉を寄せ獣を睨んでいる翔だ。2人を傷つけようとしたのが許せなかったらしい。 「なのは、さっさと封印。しないなら僕が殺るよ」 「なのはがします!」 「ぼくがやるよ」という翔の言葉に含まれた不穏なモノを感じ取ったのか、なのはが慌てて挙手をする。(どんな漢字に変換されていたのか耳で聞いただけでは分からない所に翔は感謝すべきだろうか?) 「レイジングハート」 [all right.sealing mode.set up.] なのはの呼びかけに答えレイジングハートの形が変わり、無数の魔力のリボンが倒れている獣に絡んでいく。 [stand by ready.] 「うん。リリカルマジカル。ジュエルシード、シリアル16。封印!」 [sealing.] なのはとレイジングハートの言葉と共に巨大な獣の姿が前夜と同じ石へと変わっていく。 [receipt number XVI.」 レイジングハートの中に石は消え、 「ご苦労様」 翔に頭を撫でられたなのはは一気に緊張が弛み大きく息は吐き出した。 「はやてもお疲れ様」 「わたしは何もしてへんよ?」 翔の差し出した手に掴まりその腕に座りながらはやては首を傾げる。 「む、なのはも」 「バリアジャケット解除したらね」 「う〜〜レイジングハート!」 [Yes] 「きちんとシールド展開出来てたでしょ?」 「あれだけ仕込まれれば当然やろ」 「そう?ちゃんと出来たのは偉いよ。僕も安心出来る」 「アンちゃんに褒められるんはなんやくすぐったいな」 翔の素直な賞賛にはやては頬を染めて顔を逸らす。 そんなはやての反対側では、はやてと同じように抱き上げられたなのはが嬉しそうに笑っている。 「さて、日も暮れてきたし帰ろっか」 「このままだよ!」 「当然やな」 「我が愛し児たちの望むままに」 そうして本当に2人を抱き上げたまま帰るのが翔だったりする。2人も慣れたもので疑問を抱きもしないで喜んでいる。 「そーいえば、アンちゃん、買い物良ーの?」 「ここに来る途中で恭也さんに念話送っといたから大丈夫だと思うよ」 ◇ 「翔…突然の念話はやめてくれ……やるならもう少しソフトに…」 「恭ちゃん、大丈夫?」 どこぞで頭を抱えていた青年がいたらしい…… ◇ その夜高町家では、はやての退院祝いに翔が腕を振るっていた。 材料に関しては恭也がきちんと買って来ていた。 その後、自分の入院中にあったことを聞いたはやてが自分がいなかったことをひどく悔しがり、同時にそのイタチ(翔は常に「イタチもどき」と言っていた)の存在に怖れも抱いていた。 “ここ”から引き離されるかもしれないのは自分も同じだからだ。 その夜、はやてはとある人物と一緒に寝る許可を貰い、それを面白く思わなかったとある少女も突撃していた──らしい。 [前へ][次へ] [戻る] |