sub 文化祭2 担任が話した通り、ゴミ置き場では凌が古びた椅子やら段ボールやらを運んでいた。 こちらには気づいていない様子であったので、 「しの」と少し大き目の声で話しかける。 凌は俺が来たことに驚いているようであったが、何か用と瞳で問うてきた。 「何してんの」 できるだけ優しい声音で話したつもりであったが、教室を抜け出したことをとがめられていると思ったのか、うつむいてしまった。 その思い違いを否定するように、もう一度優しく問う。 「どうした?ゴミ触ってたら汚れちゃうよ」 「散らかってたから」 と地面を見つめながら、小さな声で呟く凌の様子に思い当たることがあった。 凌は小さいころから言葉でのコミュニケーションが苦手だ。自分が話すことも、人から声をかけられることも。凌は言葉をありのままに理解し、飲み込んでしまう。その裏に隠された意味を汲み取ることは困難なようだった。そしてその言葉の全てを受け止め、強く影響されてしまう。 俺は凌とともに成長する過程で、天邪鬼なことをついつい言ってしまう思春期という厄介なものを経験することはなかった。 凌が傷つかないように思ったままを伝える癖がついたためだった。 「しの、誰かになにか言われた?」 口元に笑みを浮かべ、凌の言葉を促すが、目線を彷徨わせるだけで少し厚めの唇は結ばれたままだ。 「しの、隠しごとはきらいだよ」 もう一度言い聞かせるように話しかけていると、でたオカンと聞こえてきたが、無視する。 その言葉が効いたのか、「邪魔だから、ゴミ捨ててこいって」と蚊の泣くような声が聞こえた。 「しの、しのは邪魔じゃないよ」 いつものように負の言葉を否定してやるが、凌は納得していないようで、未だつま先を見つめている。 どうしたものか、と思案していると 「凌!俺たち文化祭でお客さん呼び込む係になったんだよー。頑張ってお客さんいっぱい呼んで、みんなの役に立とうかー」 大地が明るい声で言いながら、凌の頭をぐりぐりとなでた。 凌はその言葉に少し考えたあと、大きく頷いた。 俺は胸をなでおろしながら、その実凌が大地に言葉に従ったことがおもしろくなかった。 凌の気持ちを浮上させるのはいつも俺の役目であったのに。 [*前へ][次へ#] [戻る] |