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紫苑色のうろこ雲
一話:目覚めたらほら嫌な予感だった


気だるい、という感覚が、俺の体を蝕んでいた。ものを考えることさえ億劫で、やりたくない。どうせ目が覚めたら、暗くて静まり返った、自室なのだから。面倒なことはしなくていい、国が俺にそう言ってくれたらどれだけ嬉しいか。
だがそんなことは絶対いってくれないだろう。何故なら俺はしがない一般市民であり、凡人で、国から求められていない人間だから。普通の人生、普通の生活、普通の考え方。全てにおいて絶妙に普通として生まれた俺はクリエイティブとはかけ離れたものしか生み出せないので、俺は普通に学校に行き、普通に卒業して、普通に就職するのだろう。普通、もしくは典型的とも言えるだろう俺の人生は、あまりにもつまらないだろうと10歳の時には分かっていた。案の定、平凡すぎて普通すぎて面白みもなにもないのだが、まぁ平和といえば平和だし、両親にも何も起こらなかったし、良い言い方で言えば順風満帆だったのだから愚痴も言いづらい。マンガやドラマに出てくるような主人公たちは、必ずと言って良いほどつらい人生を送ってきた。仲間に裏切られたり、両親が消え失せたり。不謹慎ながら、そんな人生に憧れていたのだ俺は。
だが現実は非情だ。非情?まぁ非情だ。
友達だちは数人、まあまあ仲が良い。両親は健在、二人とも三十代で、若々しいし仲もいい。俺自身反抗期すら迎えず、凹凸が何もないのだ。

つまり俺は平凡。
何をしたって平凡。
つまらなくたって平凡。


ほら、アラームが鳴っている。起きろって、寝るなって。起きてもまた平凡な一日を、俺はどんな風に生きればいいのだろうか。

ピピッピピッ、

うるせぇな…

ピピッピピッ、

起きたくない…

ピピッピピッ、

「やべぇ、目覚まし止め忘れたか」

二度寝してやろうか…

ピピッピピッ

カチッ、



…ん?


止まった…?


誰だ、今止めたの。

誰だ、さっきの声は。

誰だ、この気配は。

誰だ、俺の毛布に手をかけている奴は。

誰だ、今にも毛布を捲ろうとしている奴は。



誰だ!?



「うわぁあああ!」

「おわぁあああ!」


大声を出しながら、飛び上がった。すると目の前の人物も一緒に飛び上がり、一緒に着地した。

待て待て待て待て、俺の部屋に勝手に入ってきたこの男は誰だ。薄暗い部屋の中で、必死に目を凝らす。
…知らない奴だ、泥棒か?

えっとえっとえっと、えっとまずは警察に連絡だ。不審者がいるって。そのあと警察が来るまでコイツのことを探っておこう、逃げられないようにもしなくては。次は、えっとえっとえっとえっとえっt


「なぁ…お前誰だ?」

「えっとえっとえ…?ぁ…?いや!それはこっちの台詞だし!」

「いやいや、こっちの台詞だよ。人のベッドで何してやがる」

「ちょ…これは俺のベッドだから!何言ってんだよ!酔っぱらい!」

「いや俺高校生だけど?それよりあんまふざけたこと抜かしてッとぶん殴るぞ?」

「え?あ、いや…ご、ごめんなさい…?」


何故か謝っておいた。この人怖そうだし。
それより考えなくては。早く警察に連絡しないと。いつも左腕につけているブレスレットに触れようとする。これは指紋認証で、タブレット程の画面が出てくる機械…いやそんなことしてる場合じゃなくて、早く連絡を…


ん?

感じたのは皮膚の感触。あの硬質なブレスレットの感触じゃない。完全に自分の手首だ。視線をそちらに向けると、いつも付けていたはずのブレスレットがない。なかなか取れないような設計になっているのに、今は無い。

「…ぇ…」

思わず声が漏れた。なんで?どこでなくした?

「おい、何探してんだよ」

いやいや、答えてる暇なんか…

「人のベッド勝手に荒らすなってんだよ!」

ガン!

と、壁が蹴られた。


モウヤダ…この人コワイ…。


ていうか…さっきからこの人、「人のベッド」とか言ってるけど…ここは俺のベッドなわけで。指摘するのはコワイからしないけど、早く出ていってもらわないと…あれ?俺のベッドこんなに広かったか?
俺年のわりに身長が小さいし体重も軽いしでベッドは中学生用のを買ったんだけど…蒼い柄のヤツ。よく見てみるとこれは黒だ。それに俺のヤツよりでかいし。明らかに中学生用じゃない。
チラリと前を見ると、少し怖い顔をした、こちらを睨み付けているお兄さんの姿が。ひぇぇえ…背高い…体格良い…腕太い…。
俺終了のお知らせの前になんとかしなければ…。


「…オイ、とりあえず退け。胸くそわりぃ」

「ハ…ハイ」

「ったく…お前誰だよ」


ようやくこの頃、ここが自分の部屋じゃないことを理解した。物の配置とか、ベッドや部屋の大きさも、全く違う。他人様のお宅に勝手に入ってしまったようだ。酔っぱらいは俺かもしれない。酒は飲んだことないけど。
「名前は?答えろ。ぶっ飛ばすぞ」

「っ!さ、佐野孝一です…」

「佐野…?どういうことだ…?」

「何が…ですか?」

「俺と同じ名字だ。俺は佐野和哉」

「…ぇ?」



おっ…


親父!?





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あきゅろす。
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