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モノクロなる恋模様
九話:葛藤


ストレスが増えた…いや、倍になった。忍耐力には自信のあった俺でも、今回ばかりはキレそうだ。
今日はずっと俺の腕にしがみつきながら歩いていて、邪魔くさい、という言葉なんかでは片付けられない程邪魔だ。止まれば腰に抱きついてきて、歩けば慌てて腕に抱きついてくる。また止まれば腰と、鬱陶しいにも程がある。何度も何度も「邪魔だ」「離せ」「殺すぞ」「死ね」と暴言を吐き続けるも、あまり聞いてはいないようで、ほとんど効果はない。むしろ余計力が強く込められているような気がして、少し痛いくらいにもなる。
肩が脱臼する、と言えば素直に力を緩めてきたのは意外だったが。

ただ、これだけなら俺のストレスは1.5倍程だ。ただ歩きにくいだけだし。まぁそれでも十分ストレスにはなるが、これくらいなら完全無視で我慢できる。本当に我慢できないのはこの次だ。
ほら、今も、


「…テメェいい加減にしろよ、じゃなきゃ昨日の続きすんぞ」

精いっぱい声を低くして、囁くような声になるのも気にせず、こんな脅しをしているのに、

「…っ、ぇ……」

赤く染まった顔は俺の目を見ようとしない。
何故、何故顔が赤くなる。赤く染まっている…つまりコイツは何かにキレている。何かに怒っている。それがなんなのかがわからず、頭の中でぐるぐると思考が渦巻き、ストレスとなっていく。もちろん謝る気など皆無ではあるが、そういうはっきりとしないことが嫌いな質で、イラついてんなら殴ってでもいいから言え、という持論というか性質というか考え方を持っている。キレてんなら離れればいい。キレてないんなら赤くなる理由が分からない。目の前のコイツが本当に地球人なのかすら気になってきたところだ。人智というか、常識みたいなものを軽く飛び越えていくのはだいぶ気に入らない。わからない、把握出来ないものがあるのは自分にとって悔しい。腹が立つ。
考えるな、と言われても気づけば脳が勝手に思考を巡らせ始めるので、どうしようもない。
とにかくコイツは、俺にとってのストレスでしかないようだ。


「あーいt」

「死ね」


嗚呼、鬱陶しい。






今日は暖かい日だった。というか昨日も暖かかったのだが、春終わりとも思えないほど暖かかったのだ。そよ風、と呼ばれるであろう柔らかく、優しい風が吹いていて、いかにも平和というか安穏とした雰囲気だ。今この場には、俺以外に何もいらない。一人でいたい。そんな淡い願望も、俺に抱きついているコイツのせいで、塵へと成り果てる。こんなに広い庭園で、屋外で、何故ここまでくっつかなくてはならないのか。尋ねたところで無駄だとわかっている。心を虚無感が埋めつくしそうだ。


「ねぇ藍人、あの雲ネコみたいじゃなーい?」

「…ぁぁ」

「あ、あっちはイヌみたいじゃん」

「…ぁぁ」

「あ、あれは完全に十二単の形してるねーw」

「…ぁぁ…ぁあ?」


昨今の雲の形の異常性はともかくとして、まずはコイツの異常性をどう処理するかが問題だ。殴れば風紀委員…殴らなければ延々まとわりついてくる…脅すと紅くなる。言わば八方塞がりだ。
だが、できることはある。押してダメなら引いてみろ。逆の発想だ。思い切り優しくしてやる。


「…ていうか、藍人良い匂いするね…なんのシャンプー使ってんの?」

「普通の奴だよ…それより、腹痛くねぇか?さっき強めに蹴っちまったからな」

「…え?ちょ、どうしたの…?」

「悪かったな、ちょっとイラついただけだ。まぁそんなヤワじゃないって思ってるけどよ」

「え?ええ?」

左腕を回して、肩を抱いてやる。右手で軽く、コイツの腹をさすってやる。

「大丈夫、か?」

「えええ?え…っちょ…腹ぁんま…擦んなぃで」

「あ?なんか言ったか?」

「ふ…ぅぁ……っ」

また顔が真っ赤になってきた。くすぐったいのか?ちょっと悪戯心が沸き上がってきた。

「ぁ…ちょ…ホントにゃばぃ…からぁ…」

「ん?聞こえねぇな」

「…っ…ぁ…」

いつも俺をおちょくってくる罰だ。ザマァみろ。だが、そろそろホントにヤバそうだ。瞳が潤んできてるし、息も荒くなっている。やめてやるか。

「ッチ、しゃーねぇな」

「はぁ…はぁ…ホント…どうしたの…?」

「ウルセェ黙れ」

「あ、戻った…良かった〜!」


両腕も元の位置に戻して、優しくするのもやめた。ちょっと反撃できたし弱点も見つけたから良しとするか。また生意気言ってきやがったら弄くりまわしてやる。

「あーいと!あの雲はりんごだよな〜」

「死ね」


目の前の空に浮かんだ、梨形の雲が左に流れた。




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あきゅろす。
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