モノクロなる恋模様
八話:翌日
※視点が変わります
(藍人side)
翌日。
俺は、いつも通りの時間帯に寮から出た。普通だったら少し遅れぎみの時間。一番人が少なく、誰にも会わないですむからだ。
昨日、あれだけ脅したのだから、もうついてはこないだろう。アイツはアイツの学校生活を過ごすことだろう。それに寂しさなど微塵も存在しない。食堂でも会わなかったし、大丈夫だろ。
安心しきって、靴箱から靴を取りだし、履き替える。ちょうどかがんだとき、
「おっはよー藍人!w」
「あァ゛?」
意外な声に振り返れば、昨日あれだけビビらせたはずのアイツが居た。
…なんでだ?昨日ちゃんとビビらせたよな?近寄んなって警告したよな?わざわざ殴られにきてんのかコイツは?
「なにその顔〜え、俺が昨日のでどうにかなるとでも?ザンネーンw」
「テメェ…また殴られてぇのか」
「あ、それはヤだw」
見たところ、おかしな様子は一切ない。俺と普通に目を合わせて喋れるし、無理にテンションを上げているようにも見えない。要は、平常運転。
じゃあ昨日の態度はなんだったんだよ…。
とりあえずこっちも平常運転で、無視して宿舎から出る。
すると、急に俺の片腕にしがみついてきた。
「ねぇ藍人、今日はどこ行くの〜?」
「あァ"?知らねぇよ離れろ!」
「や〜だw。いーじゃん別に」
これは明らかにいつもと様子が違う。いつもは約ニメートルをキープしていたが、今は0だ。密着感がスゴくて、不快だ。
「離れろ!ってんだろーが!」
「や〜だってんじゃん。それより速く散歩いこー」
「チッ…」
無理やり腕を振り払い、蹴りを一発入れた。いつも通り直撃した。
よし…
しかし違うのはこのあとで。
「…ぃ…た…」
コイツは、少し掠れた声で、囁くように声を出した。そのまま地面に倒れ込む。体が動かない。
…ん…?
そんなに強く蹴ったかオレ…。いや、いつもと同じだと思うけど…蹴ってる本人にはわかんねぇものなのか…?
もしかしたら、いつも同じ場所ばかり蹴っていたから、ダメージが蓄積されたのか…?
とにかく、気絶とかしていたらヤバい。風紀委員の耳に入れば、授業をさぼったりもできなくなり、反抗したら学園を追い出される。またあの家に戻るのは絶対に嫌だ。そもそもコイツ自身風紀委員だったな…いつもサボってるけど。
なんて考えながら、未だ倒れているコイツの傍に屈むと、
「うッそー!だーまさーれた〜♪」
「テメェ…マジで殺すぞ…」
「ハイハイ、ごめんゴメンw。じゃ、持ち上げてくれ」
「あァ"!?」
両腕を伸ばして、立たせるように言ってくるコイツ。やはり、いつもと調子が違う。
空元気、でも落ち込んでる、わけでもねぇ。
単純に、俺に甘えたがってる感じだ。今さらなんなんだ、ホントに。蹴られるのはわかっているだろうに。
「…誰がやるか、調子乗ってんじゃねーよ」
そのまま、前に歩き出す。考えてみれば、ここは寮の玄関から数十メートルのところで、寮の管理室から丸見えの位置だった。こんなとこでじゃれ合いみたいなことをして、仲が良いとでも勘違いされたら面倒だ。早々に立ち去らなければ。
「ねぇあーいーとー!」
後ろで、子供が駄々をこねるような声がする。もちろんこねてるのは高校生だ。誰が相手にするか。
「あーいーとー!ねぇ!」
「ッ…」
ダメだダメだ。反応してはダメだ。
「あ〜い〜と〜!」
おちょくっているような声。イライラする。
ダメだ…我慢しろ、俺。
「あーいーt」
「ウルッセェんだよテメーはよォッ!!!」
「あ、来たw」
ダメだ、反応してしまった。コイツは、俺の我慢や理性を放り投げさせるような、何かを持っている。もちろん、全て怒りに変わる。おちょくられるのがそんなに慣れていないのか俺はァ!
近くまで歩いていくと、腹立つくらいの笑みでこっちを見ていた。クソが、殺すぞ。
コイツの腕を掴み、思い切り引き寄せる。勢いよく立ったコイツの足は、俺の足から20センチ程度のところにあって。
要するに、
「離れろ…もう一発腹蹴られてぇのか」
「いんや、遠慮しまーす」
また俺の片腕にしがみついてくる。それに、また蹴られないようにするためか、さっきより力が強い。離す気配すらない。
仕方ないから精いっぱいの嫌みを込めて、
「ったく…お前は俺の理性を試してやがんのか?」
するとほら、
また顔を紅くする。
なんなんだよテメェは…
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