モノクロなる恋模様 三話:余裕が杞憂 この学校に居る奴らは、主に三つのタイプに分けられる。 一つ。単純に頭が良くて、このエリート学園に入った奴。ようはただの踏み台だ、向上心の塊みたいな奴らばかり。大抵他の生徒をバカにしている。 二つ。実家が金持ちで、親の多大なる投資のもとにこの学校に通えている奴。世間体を気にして、無理やり親がエリート学園に入れさせたらしく、ひねくれた奴らが多い。 三つ。不良。 この学校の良さは、その校則や罰の厳しさにもあって、更正させたいって親が金持ちじゃなくても入れられる制度があって、素行の悪い奴らが無理やり入れられている。大抵はただの不良。ただ風紀委員にお世話になってから、更正された奴もいる。 この三種類の生徒の割合は、ほとんど同じで、少し金持ちが少ない程度。だから上手いこと回っているらしい。 ここまでの情報は、学園パンフに書いてあった情報を自己流に推理したものだ。実際は分からない。入学式以外出ていないからな。 ああやって俺に絡んでくる不良は後を絶たない。どんなに潰しても、やっぱり突っかかってくるから、イラついて、まとめてボロ雑巾にしてやってらまた突っかかってくるという悪循環。まぁ暇だからいいんだけどよ。 現在、俺は寮の一人部屋に寝転がっている。今日は飯を食う気分じゃないから食堂には行っていない。こうやってすぐ飯を抜くせいで、腰とか腕とか、あまり太くない。コンプレックスではないが、ちょっと嘗められやすいのがウザい。 体を反転させて、壁の方を向く。真っ暗だからどこまでが壁かなんてはっきりしない。それがなんかむしゃくしゃして、また体を反転させた。 静かな部屋。 必要最小限のものしか置いていないから、ずいぶん広く感じる。何か音を出す度強く響き、部屋の中での距離が遠いのが分かる。 寂しいわけじゃない。 人肌が恋しいとかはない。 ただ、何かしらの消失感を感じていた。 学校の散策も飽きた。ていうか無駄に広い敷地内を徘徊し続ければ流石に飽きる。校舎には近づいていないから、外装とかまで分からない。 あの良く行く場所、大理石の石畳があるところを基点に、うろうろしては喧嘩する。そんな生活を送っていた。いつしか、あの石畳があるところは俺のテリトリーだと噂されたのか、誰も近寄らなくなった。俺としたら万々歳、学校からしたら迷惑行為だと思う。 そうして過ごして早1ヶ月。正直に言おう、退屈だった。でも、授業を受けに行く気にもならなかった。散策を繰り返し、時に休む。そしてまた散策をする。最早学校は俺の庭だった。校舎以外。 五月に入った。この間にも数多の学校行事が行われたことだろう。俺には関係ねぇけど。 ある日寮の壁で見つけたのは、実力テスト期間に入るという張り紙。流石エリート学園付属の寮、というか、ちゃんと勉強時間まで管理するらしい。これも俺には関係ない。その張り紙から、日付と時間を確認して、初日に部屋あったまま一度も開いたことのない教科書をパラパラ捲り、ブツブツ反復してから寝る。 次の日には、空で言えるほどになっていた。これが俺のコンプレックスであると同時に、便利な能力だとも思っている。利用しないのは勿体ない。 テスト当日。 指定の時間に学校に登校してみた。廊下でざわめかれ、メンチ切られたりもしたのだが、構わず自分の席についた。そんなもの気にする方がバカげてる。なんと思われようが明日のテストが終わったらまたしばらく姿を見せなくなるんだから。 教室に入ってきた教師の顔がひきつったのを見てから、怯えながら回されたテストを机に置いた。正直周りなんてほとんど見てなかったんだけどよ。 初め、の声でテストを捲れば、問題が羅列している。一つ目のテストは数学だ。頭のなかに教科書をイメージする。 確かこの問題を解く鍵は27ページにあるはずだ。頭のなかの教科書を27ページで止めて、中身を見ると、公式が出てきた。 目の前の問題と脳内の教科書を照らし合わせながら、どんどん問題を解いていった。このときは完全にテストに集中してるから、それ以外のことなんて頭にはなかった。 終わって、見直しもせずに時計を見れば、まだあと三十分あった。この三十分が一番嫌いだ。なんで居たくもない教室に閉じ込められなくてはいけないのだろうか。カンニング扱いをされないように、あまり周りを見渡さずに机に突っ伏した。 とりあえず目を瞑ったらすぐに眠気がきた。こうやってテストを受けるとすぐに眠くなってしまう。今日は比較的暖かい日だったから、日の光を浴びながら、ゆっくりと眠りについた。 「…ッ、」 クラス全員が息を飲んだ。テストそっちのけで、カンニング容疑も気にせず、テスト中に居眠りしている不良に目線を向ける。教師も注意などしない。目線は不良に釘付けだった。 突っ伏してはいるが、鼻から上は腕に隠れていないため、寝顔は見ることができる。 あまりにもあどけなく、可愛い寝顔だった。 普段の鋭い目付きからは想像もできないようなほど柔らかい目。 細長く綺麗な睫毛。 すらっとした鼻。 元から整った顔立ちな上に、無造作な髪の毛が余計に可愛いく見える。 クラスメイトは顔をほんのり紅くしながら、ひたすらその寝顔を眺めていた。 そのせいで、テストには取り組めなかったが。 【*前へ】【次へ#】 [戻る] |