モノクロなる恋模様
十四話:精神崩壊
イライラ不良さんが、仲間たちに召集をかけた。仲間っていうか、手下って感じなのかな?イライラ不良さんに頭下げてたし。
ようやく全員集まった頃には、その数およそ20人弱。脱出は諦めた方が良いのはわかった。
それに加えて、この人数に集団リンチに合ったら、死ぬかも知れないってこともわかった。もちろん、同時に殴ったり蹴ったりできる人数は限られてくるけど、全員が全員、殺る気だったら…。
神にでもすがりたい気分だ。ホントに。
でも神様なんていないっていじめに合ってた時にわかってるから、今すがりたいのは藍人だ。いや、藍人をすがるしかないんだ。風紀委員のところに連絡がいくのは、恐らく時間がかかる。
風紀委員にはスパイみたいな人たちがいて、問題を起こしそうなヤツを見張ってるんだけど、俺の知る限り藍人に見張りはついていないはず。もしくは俺が見張り代わりになっているはずだ。つまり、俺が拉致られたのを確認できたのは、藍人を除いて誰もいない。憂鬱だなぁ。
そうこう考えているうちに、不良たちで話がまとまったのか、ぞろぞろとこっちに来て、イライラ不良さんが俺の目の前で仁王立ちした。そしてゆっくりとしゃがんで、目線が合う位置にヤンキー座りした。
経験上、この後は髪を掴んで痛いくらいに引っ張りながら、脅し、または心もない哀れみの言葉をかけてくるはずだ。
うん、きっとそうに決まってる。
ほら、イライラ不良さんの手が伸びてきた。そのまま髪の毛に向かっていく。あんまり痛くしないでほしいな…。抵抗はしないようにしようっと。もっと酷く殴られるだけだし。
あぁ今にも不良さんの手が髪に触れて、掴まーー
「オイ、大丈夫か?」
れてない。
?????
不良さんの手は俺の髪を引っ張るわけでもなく、力強く握るのでもなく、ただただ、優しく撫でていた。
ぇぇ…えええ…?
軽く引いた。
ヤバい、ちょっと怖い。
「さっきは強く蹴って悪かったな…痛くねぇか?」
顔をまじまじと見つめられる。こうしてみると、なかなかイケメンなのが分かった。あんな怖いことしてなければ、かなりモテただろう。まぁ藍人と比べたら全然だけど、それでも俺よりイケメンだし、至近距離で見つめられたら赤面して目を逸らしてしまうくらいの破壊力はあった。
「オイ、なんか喋れ。別に取って食ったりなんかしねぇよ」
「っ…」
ヤバい、不良さんの顔が近づいてきた。向こうは目を合わせようとしてきて、俺も逸らすことができなくなってきていて。
ぅ…近い。
もう10cmくらいの距離に顔がある。さすがにこの距離で見つめ合うのは…恥ずい。
「オイ…」
囁くなよ…吐息が当たってる…。さらに顔が近づいてきて…ダメだ、顔に熱が溜まってきた。ぶわーって恥ずかしくなる。もう目を合わせられなくて、思わず目を逸らした。
次の瞬間、唇に柔らかい感触。驚いて目を見開いたら、すぐ目の前に不良さんの顔があって、目を瞑った。後頭部を優しく撫でられながら、角度を変えて、長々とキスをする。
誰かとこんなに長くキスしたことなかったから、すぐに息が苦しくなって、身を捩ったらすぐに離してくれて。
一体俺は拉致られた相手と何をしてるんだという話だが、生憎思考が蕩けてしまい、何も考えられなかった。
「慣れてねぇみたいだな…」
「は…ぁ……ぁ…」
…息が荒い。たった一回のキスでこうなってしまうとは、我ながら恥ずかしい。
ダメだ、心臓がバクバクしてきーーー
「オラァッ!」
「ぐッ…ハァ…ゥ…」
その時、別の不良に、腹を思い切り蹴られた。最初の一撃もあってか、想像以上に響く…。
ヤバい、血ぃ吐きそう。というかそれより、俺は精神的にキツかった。さっきあれだけ恥ずかしい気持ちになった直後に、嫌悪、憎悪を味わわされると、軽くパニックになる。さっきのキスはなんだったんだ?
とか考えていると、今度はまたキスが。さっきの痛みを取り除いてくれるかのような優しい口づけに、また心臓が動悸した。
そしてすぐ、腹を蹴られる。やっぱり痛い。ちょっと血を吐いた。
つまり、キスと暴力を延々と繰り返されているのだ。痛みを感じた途端に気持ちよさを感じて。気持ちよさを感じたら痛みが飛んでくる…。
…次第に恐怖心が心を埋め尽くしていった…
…なんだこれなんだこれなんだこれ。
怖い怖い恐い恐いこわいこわいコワイコワイ。
意味がわからない。
何をしてんだよコイツらは。
何が目的だよ。
何なんだよ何なんだよ。
恐怖が身体中駆け巡る。時に感覚が混在して、キスを痛くかんじたり、暴力を心地よくかんじたり。もう訳がわからないわからない。
蹴られている内に痛覚が麻痺していって。
キスされている内に感情がおかしくなっていく。
どうすればいい?
どうすれば助けてくれる?どうすればどうすればどうすれば?
どうすれば…
俺は…救われる?
その時、急に脳内に記憶がなだれ込んだ。フラッシュバックとでも言うのだろうかこれを。
あの暴力が。
あの快楽が。
あの苦しみが。
あの気持ちよさが。
あの絶望が。
あの希望が。
あの破壊が。
あの創造が。
あの暗黒が。
あの光が。
あの混沌が。
いじめを受けていた頃に感じていた感情が、一度に全て思い出されて。
ぁ…心が壊されてーーー
「オイ…テメェら…死ぬ覚悟は出来てんだろぅなァ……」
遠くで声が聞こえた。
闇に閉ざされそうになった俺の精神に、一筋の光が差した気がして。
ぼんやりとしている視界を無理やりこじ開ける。でもやっぱりハッキリとは見えないや…。
誰かが…戦ってる…?
何のために…誰のために…?
その時無意識に、口から言葉が発せられていた。
「……ぁ……ぃ…と…」
助けて。
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