モノクロなる恋模様
十三話:拉致
※視点が変わります
(藍人side)
いつもうざったいコイツが、急に甘えたがりになってから、俺はずっとコイツを抱き締めていた。自分でも、なぜ蹴っ飛ばさないのかが分からないが、とにかくずっと抱き締めていた。
急に素直になったのもあるし、以外と抱き心地が良かったのもある。俺より小さくて細い身体は、ぬいぐるみみたいだった。ふわふわじゃねぇーけど。
コイツが寝てから、しばらくして俺も寝た。我ながら無防備だと思うが、ずっとくっついてたら体が暖まって、つい眠くなってしまった。なかなか気持ち良かったのは言わないでおく。
ともかく、暖かさに眠った俺が目覚めたのは、夕方になってからだった。
「…ん?」
目を開ければ、次第に意識が覚醒していった。長い間抱き締めていたはずの感覚が、今はない。
隣を見れば、アイツがいなくなっていた。
…どういうことだろうか。いつもいつもくっ付いてきたりまとわりついてきたり、脅迫まがいのことをしてきたり、俺の部屋を探り当てようとまでしてきた奴が、急にいなくなった。ちょっと不安になってきた。特にこれといった根拠はないのだが。
起き上がって、辺りを見渡してみる。アイツの気配はない。
そしてすぐ、アイツを探してしまっている自分に嫌気が差した。なにやってんだよ、俺。
その時、アイツが寝ていた付近の芝生に、ふと目をやった。普通に、芝生が生えているように見える。一度寝転んでいたからか、ところどころ乱れていて。普通に…見えるのか?これが。
顔をその芝生に近づける。目を細めて、よく見てみる。
端から見れば、不良が地面にひれ伏しているようにしか見えないだろう。しかしその時確かに、俺の頭は目まぐるしく回転していた。数分…体感的には数十分。俺は考える。考えて考えて…考えた上で、浮かび上がった一つの仮説…。
「チッ…」
俺は舌打ちして、その仮説を証明すべく、駆け出した。
嫌な予感が的中しそうだった。
俺が立てた仮説…それは、アイツ…とおるが、拉致られたのではないかということ。しばらく芝生を観察していて、気づいたのは、とおるが寝ていた場所の側に、数人の足跡があったこと。足の大きさからして、明らかにとおるではない。とはいえ、芝生につけられたものだから信憑性は薄い。違っている可能性も十分にあった。しかし、少し歩いたところでだいぶ荒れた足跡が見つかる。
そこから導き出される推論が、拉致、というものだ。
そして誰が、という疑問に至るのだろうが、粗方見当はついている。一つはタイミング。とおると俺が出会ってから、一週間弱。学園には、きっと俺がとおると常に一緒にいると、噂が流れているだろう。それに最近、前までは毎日絡んできた不良どもの姿が見えない。てっきり懲りたのかと思い込んでいたのだが、違ったようだ。
つまり、拉致ったのは他の不良ども。俺がとおると抱き合っているのをみて、人質にでも取ろうとしているのではないだろうか。俺の寝込みを襲っても、勝てるとは思っていないから。
あくまで推論、されど推論。
とにかく、確かめなければならない。最悪の事態も考えておかなくては。現在の目的地は、よくその不良どもがたむろっていた場所だ。もちろん場所はわかっている。伊達に1ヶ月以上校内を徘徊していない。
久しぶりの全力疾走に全く疲れを感じないまま、俺は走っていった。
※視点が変わります
(とおるside)
あぁ…捕まっちゃったなぁ…コワイお兄さんたちに。
今までの俺の人生、いじめッ子にはたくさん会ったが不良の類いにはあまり関わってこなかった。不良らしい不良という不良に。藍人も不良っぽいけど、しばらく一緒にいると、ちょっと違った。結構優しいし、無差別的な暴力もしない。やっぱ不良じゃないかも。
その点、この人たちは根から不良だろう。お互いに意味もなくイライラしあって、訳もなくどづきあいを始める。何が楽しいのだろうか。
今、携帯を取られて色々調べられている。多分藍人のことだろう。典型的な不良だったら、ここで藍人の携帯に電話して、自ら呼びつけるのだろうが。
残念ながら、藍人は携帯を持っていない。一度機嫌が良いときに聞いてみたら、いちいち電話に出たり返信したりが面倒だから持たないと言っていた。だから当然、藍人の電話番号、ましてやメアドとかも見つかるはずがない。そのことを言う義理もないのだが。
「クッソが!ねぇじゃねぇかアイツの電話番号!履歴すらねぇし」
「落ち着け。どっかにあるか削除してんだろ。それより本人に話聞こうぜ?」
「…そうだな、そうするか」
ボスっぽい二人が、なにやら話をしていた。うわぁ…こっち来ちゃった。イライラしてる方がもう一人より背も高くて力もありそうで。…脅されんのかな?慣れてんだけど。
「オイ!てめぇ」
「あ、なんですか?」
一応は敬語だ。何されるかわかんないし。
…今さらかな。
「黒鷺の番号!教えろ!」
「…いや教えるも何も…アイツ携帯持ってないんですよ」
「アァ"?ふざけたこと抜かしてんじゃねぇよゴラ"ァ!」
ふざけたこと抜かしてないんですけど。
でも本当だしなぁ、って言ったら腹を蹴られた。慣れてるとはいえ、怖いものはコワイ。一応腹筋に力を入れたけど、あんまり意味なくて、激痛が走る。…いや、まだ大丈夫だ。
でもこの人たちは、俺をいじめてきたグループの何倍も喧嘩慣れしてるし、体格も良い。正直あと数発で血ぃ吐いちゃうかもしれない。
…いたい。
でも縄で手を後ろに縛られてるから、さすったり痛みを緩和させることもできない。藍人助けにこないかなぁ…って思いながら、俺はこんなことを呟く。
「…それに、アイツは俺と仲良くないし…言っても来ないと思いますよ?そもそもアイツにとって俺はストーカーみたいなものですし」
「アァ?てめぇら恋人同士じゃねぇのかよ」
「恋人同士って…今そんな噂流れてるんすね…」
「じゃあ、なんで抱き合って寝てた?」
今度は、イライラしてない方のお兄さん…いや、先輩なんだけど、その人が話しかけてきた。声は静かだけどどこか恐ろしさがあって、凍てつくような低温ボイス。ある意味この人の方が怖い。
それにしても、少し痛いところを突かれた。普通ストーカーと抱き合ったりしないよな…。
できるだけ速く脳みそを回転させて、もっともらしいことを言う。
「あれは、俺がもうストーカーしないって約束して、最後の慰みとして抱き締めてもらったんです…目が覚めたら、俺は消えてるからって…」
「そうか…なら来る可能性は低いな、どうする?」
「知るか!腹いせだ、リンチにすんぞ」
ぇ…。
いよいよヤバいかも。
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