モノクロなる恋模様 十ニ話:ありがと それから、俺は自分を変えようと、密かに努力を積んでいった。まず、イメチェンからと、ネットを漁って、今流行りの髪型だとかを真似してみた。全く似合わなかったから自分なりにアレンジしてみたんだけど。 毎日呼び出されるのは変わらないから、その間は前と同じように、家では夜な夜な変わろう、変えよう、と考え続けた。 携帯小説を読み漁って、色んな言葉やしゃべり方を覚えた。今まで一人称が「僕」でなよっちいキャラだった俺は、明るくて人をおちょくったり、冗談を言うのが大好きな快活キャラになろうと練習して。 徹夜で勉強に勤しみ、今までの遅れを取り戻そうとして。 夜はランニングして、スポーツも色々できるように努力して。 犯されてるときも、ちょっとわざとらしいくらい無理やり喘いでみたりしたら、だんだんと手つきが優しくなっていった。 とにかく、人生最大限努力した。凡人の俺が、1ヶ月でできる範囲で。 そして迎えた始業式。 教室を開けると、大きく息を吸い込み、 『おっはよー!』 って言ったらみんな驚いてたなぁ。返事も帰ってこないから、 『え何々w。なにみんな葬式みたいな顔してんの〜?ちょ、なんか喋ってよ恥ずいじゃーん』 正直、戦々恐々だった。脚も震えそうだったし。それでもやめてやるかって、俺が努力した1ヶ月は自信を持てるから、キャラを貫いた。 最初は、みんなぎこちなかった。気を使われてるような感じもしたし、裏でなんか言われてるのも気づいてた。でも気にしない。気にしたら負けだろ? いじめグループも、急な俺の変化に戸惑い気味だったのだが、いじめはやめなかった。前と同じ。でもオレはだいぶ慣れてきてて、血ぃ吐くまで殴られても、意識飛ぶまで犯されても、ずっと笑顔のままでいることにした。これで戻ったら意味ないじゃーん。 やがて、オレにも友達ってのができて、よくしゃべったり、馬鹿騒ぎしたりしてみた。今となっちゃ受験生がなにしてんだって話だけど。でもちゃんと勉強もしてたから、テストでは学年上位だったし、先生にも感心されてた。 その友達からどんどん輪が広がっていって、気づけば俺は、クラスの人気者に。いじめグループの人数も少し減ったようだ。相変わらずリーダーはリーダーだったけど。 彼女もできて、そこで童貞を捨てさせてもらった。ここで改めて俺はノンケなんだと確認できたのだが。 いつものように、クラスメイトとの楽しい日々。まだいじめは小規模ながら続いていたけど、ましになってきていた。 リーダーの奴に、 『てめぇ後で来いよ』 なんて言われても、 『え〜しょうがないなーw。あんまがっつかないでね野獣さんw』 なんて冗談も返せるようになった。 そして12月。 クリスマス直前に、いじめはなくなった。 彼女と見たイルミネーションは、今でも鮮明に覚えてる。まぁ、もう別れちゃったんだけどな? いじめが無くなるちょっと前から、桜煌学園で会った不良が忘れられなくて、桜煌学園への受験を決めていた。とりあえず行けば会えるはずだ。入学するって言ってたし。 そして、一言礼が言いたかった。あの言葉に。 親には反対された。 金がないって。 先生にも反対された。 偏差値が届かないって。 友達にも引かれた。 お前ホモなのかって。 でも、とにかくアイツに再び会って話がしたかったのだ。 そして猛勉強の果てに、見事推薦入試で合格したのだ。俺スゲーw。 友達は地元高校に行ったようだ。当然縁切り。まぁ半年の仲だったし後悔はしてない。 様々な障壁を経て、俺は桜煌学園に入学した…のは良かったけど、今度はあの不良が見つからない。クラス分けの紙に名前はあったんだけど、登校してないみたいだ。探すにも、この広い敷地内でどこにいるかもわからず、情報も何もなくて、とにかく待ってみることに。もし神様がいるなら、また俺たちを引き合わせてくださいって願った。 そしてテストの日。いつも通りの1日が過ぎようとしてたけど、今日はなんか違う雰囲気がして。二時間めの休み時間、教室のドアがガラッと開いて。 見つけた… あの日の不良さん。 「ねぇ藍人…」 「んだよ…」 ぶっきらぼうに呟いたのは、いつも通り、ご愛敬だ。 さっき抱き締めてもらって元気が出てから、(まぁ全然ショックなんかじゃ無かったんだけどね?)二人でいつもの庭園に来ていた。ここでもお願いしたら、抱き締めてくれた。くもり空でも、暖かかったのは、そのためだろう。寝転んだまま余計力を込めて抱きつく。心地よさに眠りそうになるが今寝てしまっては意味がない。 「あのさ…俺…」 中学のときいじめられてたんだ、と、出かけた言葉を飲み込んだ。教えるのは、今じゃないかもしれない。ていうか、また今度でもいいかな? 「…なんだよ」 「……ぅぅん、何でもないわ」 「…じゃあ話しかけんなボケ」 ちょっと乱暴だけど、ホントは優しくて。 面倒見もよかったり、初対面の人にもものを言える度胸もあって。 俺は…僕は藍人くんが大好きだった。 この好き、が、 恋人へのものなのか 家族へのものなのか 親友へのものなのか。 まだわからない。 なんとなく、好きって思ったから毎日張り付いてるだけだ。藍人くんは迷惑そうだったけど。 「ねぇ藍人……」 「…だからなんだよ」 その時、雲が晴れた。 青空はちょっとしか見えないけど、間違いなく陽が差した。 フワッとそよ風。 周りの芝生が風に吹かれて、少しなびいた。 藍人くんの腕に抱かれ、日が当たったことで、暖かさが割り増しされた。 気持ちいいな… ずっとこうしていたい。 「…ありがと」 「ハァ?」 不満げな藍人くんをよそに… 俺は満足げに笑って… 「ったく…寝んのか?」 目を閉じた。 瞼の裏には、 あの日の不良ーーー 【*前へ】【次へ#】 [戻る] |