モノクロなる恋模様
十一話:現実的だろ
藍人に押し倒された日。
藍人が立ち去ってからもしばらく芝生に寝転んで、一人思案していた。
藍人に押し倒された瞬間から、心臓がバクバクしていて、未だ収まっていない。目を閉じれば、藍人の顔が浮かんでいて、恥ずかしさですぐ目を開ける。でもすぐにまた目を閉じるのは、その顔に見惚れている自分がいるから。
ファーストキスから、既に童貞まで捨てている俺にとって、このむず痒い感覚は、知っていた。
そんなことあるのか?
ノンケの俺が、藍人のことが好きだなんてことが。確かに俺はこの学校に入りたくて猛勉強して、親にも頼み込んで先生と喧嘩してまで、入学してきた。その時点で俺が同性愛者だと疑っていた人は数多く居ただろう。実際、男友達に避けられたり親に必要以上に部屋を掃除されたり。なかなか面倒くさかった。
そうまでして俺がこの学校に入ろうとしたのは、夏休みに体験入学に行ってきたから。
中ニから、俺はいじめられっ子だった。最初は、気まぐれでいじめをしていたグループのリーダーが、まぁまぁモテる俺の顔に嫉妬したからだった。上履きに画ビョウ、という典型的なものから始まり、血を吐くほどの暴力に発展するものもあって、正直毎日死のうと思ってた。俺は臆病だったから、そんなことできなかったけど。
毎日毎日いじめを受ける度に俺は反抗していたから、余計エスカレートしていって、俺の体には痣が増えていって。
クラスメイトは全員気づいていただろうが、みんな怖くて、誰も手出しできなかった。先生にも言わなかった。まぁ仕方ねーって思ってるからクラスメイトを恨むつもりはさらさらないんだけど。
ある日、また体育館裏の倉庫に呼び出されて。
その日は、グループのリーダーが興味本意で、俺を犯してみよう、ってことになってたらしくて、そこで処女を奪われた。あの時が一番死にたくなったな。快感なんてほとんど無くて、痛みしか感じなかった。
その後、そのまま犯されたり殴られたりの日々が続いて、気づけば中三の夏休み。その頃には反抗すらできなくなって、ボロボロになっていた。全員が全員、俺をいじめるのに飽きていないらしくて、さらにいじめの頻度は上がった。リーダーに至っては、毎回俺の体を求めてきて、俺から離れられなくなってるみたいで、夏休みは毎日呼び出された。ほとんど監禁みたいなことされたし、今思っても鳥肌が立つ。
その頃、高校から勧誘が来たりし始めていた。配られるプリントはだんだんと増えていって、今の時代どこにでもいけんだなって思った。
そのなかにこの、桜煌学園があった。県外なのに、アピールがスゴい学校で、どこか惹かれた。毎日呼び出される日々だから、何をしたって同じだし、覚悟を決めて、行ってみることにしたのだ。
実際、男しか居ないのは衝撃だったし、毎日ヤられてたことがことだから、行くつもりもなかった。こんなホモの聖地みたいなとこ行ったら、まるで俺がヤられることを喜んでるみたいじゃねーか。
でも、帰ろう、と校門から出たとき、一人の不良の外見した男が歩いてきた。関わらないようにしよう、と無視しようと思ったとき、
『オイ』
『…え?』
『お前この学校に入んのか』
『…いや…?』
『そうか』
『……君は?』
『…入ろうかと思ってる』
『…なんで』
『…なんとなく』
『…ふーん』
『……なんで入らないんだ?』
『…僕は…僕はいじめられっ子だから……男子校なんか入ったら…』
『……いじめられてるのか』
『………ぅん』
『なんで』
『…なんでだろ…』
『いつまで…いじめられるつもりだ』
『……アイツらが飽きるまで…かな』
『……そうか』
『……こんなこと聞いてどうすんの…?』
『…別に…』
『…そう』
『そうだ』
『…………』
『だが一つ言えるのは…』
『………?』
『向こうが変わるのを待つより…自分が変わることを考えた方が現実的だろ…』
『…………ッ』
『……じゃあな』
『………じゃあ』
自分が変わる…
その発想は無かった。いつもいつも抵抗だけしていて、コイツらはなんでいじめをするのか、とか考えたこともなかったし、早く終われって…早く飽きろってそればっかで。
動かないクラスメイトに動いてくれって。
気づかない教師たちに、気づいてくれって。
願ってばかりだったんだ俺は。
現実に背を向けて、
想像に…妄想に…
理想に、祈ってばっかだったんだ。
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