モノクロなる恋模様
十話:抱羅
「…藍人のばーか」
「…知らねぇよ」
「…ずるいでしょこれは」
現在。
寮の廊下に、俺とコイツは立っている。寮の掲示板がある、壁の方を見ながら。
掲示板、には、様々なものが張られている。来るべき行事のポスター、探し物や探し人の張り紙、寮の規則50条まで。
そして、実力テストの結果…学年50番以内までの巻き紙も掲示されていた。校舎にも張られているらしいが、ライバル意識を持たせたり、テスト直後の反省気分を忘れさせないため、寮にも張っているらしい。ただっ広い掲示板に、三学年分の巻き紙が並べて張られているのはなかなか壮観だ。点数順に一位から発表されて、50位まで見たあと、コイツの名前が無いのはわかった。まぁ名前なんて覚えてないんだけどよ。
それよりコイツにとって重要なのは、過去最難関と言われていたらしい実力テストで第一位をとった人物。点数は…499点。
黒インクで印刷された巻き紙の一番上には、「黒鷺藍人」俺の名前が
「何をしたぁ!貴様ぁ!カンニング?カンニングしたのねぇ」
「テメェ…人聞きワリィな。するわけねぇだろうが!」
「不良もどきの癖に!真面目なこと言うなぁ!ていうかテスト中寝てたじゃん!絶対印刷ミスでしょコレェ!」
「ウルセェんだよごちゃごちゃ!あんなテスト20分で終わるだろーが!テメェの頭が沸いてるだけだ」
「あんなテストぉ?言っとくけど俺らのクラスA組だから学年で一番頭良いんだよ!?二位はA組イチ勉強熱心な松丸くんだよ!?松丸くんでさえ452点なのにぃ!」
「ケッ…レベル低いんだよドイツもコイツも」
「…あげくの果てには殺すよ?」
「ヤレルもんならな」
最初は何をイライラしてんのかと思ったが、ただの八つ当たりみたいだ。死ね。
コイツの情報によると、この学校は成績ごとにA〜Eの5クラスに分けられるらしい。最初のクラスは入試の成績、それ以降はテストがあるたびにクラス替えされるらしく、自分の成績がどの程度か、常に意識させられながら生活を送るようで、陰湿な学校だな、と思った。今回のテストでコイツはC組に降格。入試だけをめちゃくちゃ頑張っていたらしい。
未だ廊下でうちひしがれているコイツに一瞥を送ってから、自室へと戻るべく、足を進めた。
コイツ以外との関わりがない俺には、今回のテストで、様々な人物から目をつけられることになるとは、知る由もなかった。
次の日。
いつも通りの時間、いつも通りの手順で、俺は玄関から外へと出た。今日はくもりか、と空を見上げる。そういえば自然物の描写しかしてねぇな。まぁそのうちするかもしれねぇが、今のところ寮と外以外何処にもいくつもりないからな。
「ぁーぃーと…」
「アァ"?…ったく…情けねぇツラしてんじゃねぇよ」
「ぅぅ…」
「お前は今日から学校に通え。そしたら成績も落ちねぇ。そんで俺には二度と近寄んな。それがベストだ」
あれ?俺なんか優しくなってねぇか?
…気持ちワリィ。
「ぅぅ…やだ、藍人と一緒に居るぅ…」
「ざけんな、殺すぞ」
「…ぅぅ」
相変わらずまとわりついてくる腕は変わらない。だがその腕にも元気がねぇ。少し揺すれば崩れ落ちるだろう。そんなに堪えたのか?
「…ぁあうぜってぇ!しゃんとしろや!」
「だって…」
「だってじゃねぇ気合い入れろ!」
「……藍人」
「あん?」
「……抱き締めて…?」
…ハァ?
何でだよふざけんな俺はテメェの母親じゃねぇんだよ殺すぞ。
そう言ったらさらに力が抜けて、今にも地面に座り込みそうだ。成績が下がったぐれぇで情けねぇ。やっぱストレスだ。
「チッ…ああイラつく…」
しゃぁねぇか?コイツはすぐに俺の調子を崩す。気づけばペースに巻き込まれている。迷惑な存在だ。だが、鬱陶しいのも気合いが入ってねぇのも、調子狂わされる。
どうかしちまってんな、俺…。
※視点が変わります
(とおるside)
急に感じた感触に、俺はすごくびっくりした。
冗談半分…ではないとはいえ、ホントに抱き締めてくれるなんて思わなかった。藍人は俺のことが嫌いなんだと思ってたし、いつものように腹を蹴られるのだと丹田に力を込めたところだったのだ。
だが、実際は腕を捕まれてまっすぐ立たされたあと、背中と頭に両腕をまわされて、がっしりと抱き締められた。厚い胸板が、気づいたら目の前にあって、顔に熱が溜まるのを感じる。いつも俺に叩き込まれる拳は、あの乱暴さが嘘だったかのように、優しく頭を撫でてくれて。
鼻から息を吸ったら、いつもの藍人の匂いがいっぱいに広がって、脳に伝わって、何も考えられなくなっていく。
嗚呼、ダメだ。俺ホント藍人のこと好きだわ。
ふわっと香った
いい匂いーー。
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