どらごんおーぶ 2−3 僕は自分の顔が笑顔になるのが判る。子供の頃から美味しい物…… 以前にお腹一杯食事をとる事ができる者にしか判らない幸福、至上の幸福。これを共有出来る者がいなくても僕は幸せで、最高に幸せで…… 僕は気がついた。全く同じ表情で僕と同じ物を口にしている者が目の前にいる事に。というか僕より貪り食っていない? 「フウタの食事を優先したのは判るけどな。二人で芋を食っていたのか」 カンが貪り食べているいるのをゲンノが苦笑いで眺めている。カンがみっともないと思っているんじゃあなくて、カンが食べられなかった事に憤っている苦笑い。ただ憤ってもどうにか出来る訳ではないというのを一番判っているのもゲンノだった。 「芋、高かったから……」 パン一つ食べ終わりスープをカップ一杯飲みきったカンが名残惜しそうに鍋を眺めながらぼそぼそと答え 「ヒコザ」 はいはい。ゲンノの指示は判っている。もう一つの黒パン、カンからカップを受け取って干し肉2枚放り込んでスープをすくいカンに渡す。 「あ」 「大丈夫、僕も2個食べるつもりだったし」 路銀はあるはず。少なくとも僕がゲンノから渡されている路銀だけでも今すぐカンとフウタを連れてエードに帰る事が出来る。例えばの話だけど。 カンがもう一つのパンを食べ終わりスープを飲み干して一息。僕も2個目のパンを食べ終わり鍋にスープが残って…… これはカンの分だよね。僕はカンのカップにスープを入れもう一つパンを渡す。カンは驚いたようにパンと僕を交互に見る。 「カンの分」 「あ、ありがとう」 お礼を言う余裕が出来たみたい。ゲンノも気がついてニコニコ笑っている。 「で、フウタの親の話を聞かせてくれるか」 「よく…… 知らない……」 にこにこ笑ったままゲンノが聞き、パンとスープを持って笑顔を見せたカンがその笑顔を引っ込める。 「知らない…… そりゃあ戦竜だって自分の強姦事情を話したいとはしないだろうが……」 「そうじゃあなくて…… ああと」 パンとカップを持ったままカンが上を見る。 「卵を産んだレッドドラゴンが『私、ブラックドラゴンとHしたのよ!! 何でパールドラゴンが生まれるのよ〜!!』だったから」 レッドドラゴン? ブラックドラゴン? パールドラゴン? 僕には判らない単語が並ぶ。ゲンノも驚いたようにカンを見ているから話が判らないんだな。 「……ブラックドラゴンとレッドドラゴンのハーフでパールドラゴン?」 ゲンノが聞き返している。カンとフウタが同時に頷く。ゲンノが自分の顎を撫でながら天を仰ぐ。 「レッドドラゴンは戦竜なんだな」 顎を撫でながらゲンノが尋ね、カンが頷く。 「戦竜は親兄弟が判っている者が多い。そしてパールドラゴンの血が入っているとなれば価値が下がる。だから母親の方にはパールドラゴンの血は入っていない。と、なると父親がパールドラゴンの血を引いているんだろうが…… 見た目はブラックドラゴンだったんだろう?」 「話を聞いただけだけどな」 カンがぽつりぽつりと話し出す。 ゲンノとカンの話から判った事は、何せパールドラゴンという種族は飛龍の二つ名を持つけれどドラゴン族随一の臆病者で戦闘どころか人が飼い慣らす事も難しいらしい。生きている限り逃げ回ってしまうし、なんとか捉えても怯えきって食事をとる事が不可能で、逃がすか飢え死にさせるかしかないらしい。 反対にブラックドラゴンというのは完全肉食。傍若無人。超攻撃的でもの凄く強い、らしい。だから全くパールドラゴンと反対の理由で飼い慣らす事は出来ない。捕まえようとすれば持てる力を使って捉えようとした者を食い殺すし、なんとか捉えても餌を持ってきた者も一緒に食べてしまう、らしい。ブラックドラゴンを捕まえたお陰で街一つ分の住人が全てブラックドラゴンのお腹に収まり、もう食べるべき人間がいなくなった事を確認したら、それまで自分をつないでいた鎖を簡単に引きちぎって天高く飛び去った。という話もあるらしい。 だから戦竜のレッドドラゴンがその冷酷な性格と竜族最強の力を持った子供を欲しがってブラックドラゴンと交わるのは納得できることらしい。 ただ竜族最強と竜族最弱(あんまりにも弱すぎるせいで竜族からパールドラゴンという名前ではなく、羽有り飛行トカゲと呼ばれているらしい)が交わるというのは、ゲンノは勿論、竜の村育ちのカンですら考えられない事らしい。 「でも、卵を産んだレッドドラゴンは嘘をつく奴じゃあなくて。フウタが生まれた時も殆ど発狂して」 カンがフウタを眺める。戦竜の中ではブラックドラゴンの子供を宿したというのは一種のステータスらしくて、フウタの母親は卵を産んだ後反り返った頭が地面につくほど自慢しまくって。最強の子供が生まれると思ったら最弱の子供、それも人間型で生まれちゃったんで錯乱しちゃったらしい。 [*前へ][次へ#] |