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中短編
3


俺の「どのくらいできるかはわからない」は副会長にとってとても都合のいい言葉だったらしい。
副会長は他生徒が見たら発狂するほどの笑みを浮かべ、その手に抱えていた書類の約半分を俺に充てた机に置いた。
もう一度言おう。約半分の書類だ。新人に渡す量ではない。

「…」
「ちゃんと説明はするから大丈夫だよ」

前言撤回したい。
何もせずに帰りたい。帰って勉強か読書がしたい。

「この書類はWord使って、それからこっちはExcelね」

示された書類に手早く付箋を貼りWord、Excel、と使うよう指定された言葉を書いていく。

副会長は約一時間ほど書類をどのように打ち込むのか、どのように作成するのかなどと丁寧に説明してくれた。その説明の仕方がとても分かり易かったのと、おそらく俺自身処理能力が高かったのだろう、その一時間で大体のことを理解した。

その一時間の間に書記と会計がやってきた。寡黙な書記とチャラ男会計。相容れないように見える二人だが生徒会役員という仲間意識でもあるのか結構仲は良さそうだった。そして二人とも仕事にはとても真面目だった。
書記は心の中でも寡黙なのかほぼ何も聞こえなかった。強いて言えば[腹が減ってきたな]とか[あ、この計算ミスってる]とかそんなのばかりで俺の精神衛生上とても良い(日本語がおかしい気がするが)先輩だった。
意外にも会計も静かだった。[あー、だる、帰りたい]や[めちゃくそねむ、やば、落ちそう]など少々聞こえたが気にならない程度だった。
副会長は[会長はまだですか][これは会長の印鑑が必要なものですね][この雑な書類は…また新聞部適当に…!!!]などの仕事に関することしか流れてこない。流石副会長だと思った。

それから更に30分経った頃、やっと会長が生徒会室に現れた。

「あぁ、お前もいるのか」
[キレーな面してんなぁ]

生徒会の扉が開いた音とともに聴こえてくる声と心。

「補佐とは言え生徒会に入らされましたから。それよりも会長が遅刻なんていいんですか?」

少し睨むように見上げると会長は何故かふっと色気全開で微笑んだ。

[あちゃー、補佐ちゃん気に入られたなー、ありゃしばらく甘くなるなぁ]

と会計の心が聞こえてきてぎょっとして思わず会計を見てしまった。

「なになに、かいちょー補佐くん気に入ったのー???」

しまった、と思ったがタイミングよく会計が話を始めてくれた。

「そうだな、この俺様に楯突く感じとその鋭い目が気に入った」
「わあー、やったね補佐君!」
「…心底どうでもいいので仕事をしていただけますか」
「斎鳶君、君という生徒はなんて素晴らしいんだ…!」
「はっ!この俺様に指示を出すなんて百万年早ェんだよ」

ぐわ、と会長の腕が伸びてきて襟元を鷲掴みにされる。さすがに怒ったかと思ったら近づいてくる顔。

[わぁさっすが会長早速手出しちゃうのか〜!]

会計の心によってハッとした俺は近づいてくる顔に終わった書類を押し付けた。

「どうぞ終わったのでチェックしてください」

[チッ、まあそのうち、な]



会長から意味もわからず迫られながらもとりあえず一日目が終わった。疲れてはいたが他の連中と違って生徒会役員は仕事中は仕事のことしか考えないらしく、数日のうちに生徒会室での時間は俺にとっての安息の時間だと気がついた。

部屋まで送るという副会長の申し出を断って一足先に生徒会室から出る。校舎から出るともうとっぷりと日は暮れ、周りは月明かりで照らされた木々が不思議な雰囲気を醸し出していた。今まではこの時間には外に出なかったからか気分が高揚していたのと連日の慣れない仕事で頭を使っていたので正常な判断ができなかった俺は少しある場所まで散歩しようと道を逸れ木々の中に足を踏み入れた。

そこは以前具合が悪くなって休むところを探している時に偶々見つけた絶好の休憩スポット。木々が覆い茂った裏庭を突き進むとぽっかりと空いた空間があるのだ。おそらく昔誰かも見つけたであろうこの場所には小さいテーブルと椅子、ベンチもあった。そしてそこには小さいながらも綺麗な噴水もあった。俺はそのベンチに座って噴水を見るのが好きだった。時間を忘れて月明かりに照らされた噴水を見つめそよぐ風を感じ仄かに香る花の香りを楽しみ木々の騒めきに耳を澄せていた。

「先客か」
[あれは誰だ?]

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