…5。
………
「…で?」
『“で”って?』
すっとぼけてるのか、わざとなのか。
受話器越しの母は、「忙しいのよ。」なんて、今にも電話を切らんばかりだ。
「だーかーら!なんでケンジがこっち来てんの!?」
バイトの時間だからと、片付けもそこそこにアパートを出てきた俺は、炎天下の中、近く公園のベンチに座っていた。
『だーかーら!お祖母ちゃんの具合が悪いんだってば。
ちゃんと留守電に入れてたでしょ?』
…でしょ?って言われても。
暑いのにこんな所で電話を掛けるこっちの身にもなれよと、呆れ気味に溜め息を吐いて、ポケットの煙草をくわえた。
「それは知ってるよ。
つーか、祖母ちゃんの具合どうよ?」
『歳だからねぇ。
しばらく入院する事になったのよ。』
「そうか…。祖母ちゃん心配だな…。」
しばらく会ってない祖母の顔を思い浮かべ、スパーと煙を吐き出すと、
…違う違う。
うっかりこのまま切る流れだった!
「あー…、だから!ケンジもそっちに連れて行けば良かったんじゃないの?」
…そう。
言いたかったのは、まさにこれだ!
納得の出来る答えを求めて言い放ったが、
『馬っ鹿じゃないの?こっちは何もないじゃない。ド田舎だもの。』
自分のふるさとをド田舎とか何もない等と言い切るのはどうだろう。
ついでに息子に向かって馬鹿もないだろう。
『こっちは実家でパパと水入らずで過ごすんだから。』
うっかりかわざとかの本音を自信たっぷりにぶっちゃけた母は、極めつけに。
『いいんじゃない?そっちも兄弟水入らずで。
…羽目は親の居ぬ間に外すものよ?』
…いや、そこは親として釘を刺す所だろ!
『どうせ部活もバイトもやってないんだから、夏休みいっぱいはそっちに置いといていいから。』
じゃあねん。
と軽い感じで切られた電話を握り締めたまま。
「うっそーん…。」
本日2度目となる、間の抜けた呟きをもらしたのだった。
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