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…4。




口でそう言いながらも、当たり前のように掃除機を出してくるケンジは気付いてる?
自分が慣れた手付きだって事。
どこに何があるかを確実に知ってるって事。



…やっぱり、忘れてるんだな。


俺の記憶の中で、ケンジがこの部屋に来るのは初めての筈だ。
掃除機の場所を知っているわけがない。
それなのに、違和感なく室内を立ち回るケンジは、その事に気付いていないんだろう。


だから俺も、あえてその事に触れずにいたんだ。




「飯どうする?」
「あー、なんかコンビニとかでいいんじゃない?」

「病人なんだから飯は大事だろ?」
「いや、病人ってほど悪いとこなんかないだろ。」

「顔。頭。」
「おい!」


他愛のない会話は楽しい。
当たり前のようにケンジが笑って、それに俺が笑い返していると、記憶がないとかそんなものが、どこか別の話みたいだ。



掃除が終わって一息吐くと、テレビをつけて並んで座った。


「疲れたー。」


ベッドに寝てばかりいた所為か、疲れやすくて仕方ない。
たかが掃除でぐったりとしてしまった俺をケンジが呆れた顔で笑った。


「年寄りくさい。」
「うっさい!…運動不足なんだよ。仕方ないだろ?」

「…開き直ったよ。」


ペットボトルを手渡され、受け取るを口を付けるふりをしてケンジを盗み見た。


入院中から思っていたが、ケンジはどこか前より大人びた感じがする。

連休中に会ったケンジよりも凄く落ち着いてて、その雰囲気は年齢よりも一、二歳は年上に見えるのは、やっぱり失った記憶の所為なんだろうか。





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