19…。
コウジに促されるように洗面台のあるバスルームに入ると、気付かれないようにそっと鍵をかけた。
それは別にコウジと離れたいからじゃなくて、少し一人になって頭を冷やしたかったからかもしれない。
「…はぁぁ…」
勢い良く蛇口を捻ると、バスルームに大きく響く水音を聞きながら大きく息を吐いた。
帰らなきゃならない事はわかってる。
…けど、帰りたくない。
こっちにくる前、母さんと約束した事を思い出して更に溜め息を吐くと、バシャバシャと乱暴に顔を擦った。
『…もしかして、もう…そういう…』
気まずい雰囲気で、目も合わせずに訊かれたのはいつだっただろう。
いや、本当は覚えてる。
『コウジは駄目よ』
そう、釘を刺された日だ。
あの日、病院から帰宅した母さんが真っ直ぐ俺の所に来てそう言ったんだ。
なぜ気付いたのかとか、そんな事は訊けなかった。
けど、その声は頼りなく揺らいでいたクセにどこか確信のある強さがあって…。
『……うん。』
気が付くと俺は頷いていたんだ。
息を飲んで、苦しそうに歪んだ母さんの顔に泣きたくなる。
別に苦しめたかったわけでも、悲しませたかったわけでもない。
けど、そんな表情をさせているのは確かに俺なのが辛くって。
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