…5。
―八月三十日。
今日はケンジの誕生日。
そして、明日ケンジは家に戻る。
「…う、ん…」
ぱさり、と汗で少し重みのある髪が頬に当たり、ゆっくりと目を覚ました。
寄り添いながら、まだ夢の中のケンジに微笑むと、その気配に気付いたケンジがスリスリと頭を押し付けてきて、ちょっとくすぐったい。
「おはよう。」
「んー…」
昨日は遅くまでDVDを見て、そのまま寄り添うように眠ってしまったらしい。
目が覚めないのか、それとも甘えているだけなのか。
なかなか離れようとしないケンジは、そのまましっかりと俺に抱き付いて、じゃれ合うように軽いリップ音を立てる。
「ふふ。くすぐったいって。」
クスクス笑いで近付いてきた顔が、いつかみたいに鼻をちょんとくっつけてきて、
「おはよ、コウジ。」
「うん、おはよう。」
唇をお互いの息で湿らせながら、もう一度キスをした。
そういえば、ここ一週間で数え切れないほどキスしたな、なんて感触を味わいながらぼんやりと思う。
唇が触れる程度の軽いものから、唾液が伝うほど深いものまで。
けど、それだけだ。
抱き合って口付けて、
…それだけ。
それ以上進まないケンジの優しさが温かくて、ちょっと切ない。
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