[携帯モード] [URL送信]
…1。
『さよならとキス』





「退院したい。」


口を開けばそればかりを繰り返す俺に、眉を下げた医師がとうとう折れたのは、検査の為、そのまま入院を強いられて数日が過ぎた頃だった。


やっと降りた退院許可に内心ガッツポーズをした俺は、忘れずに通院をする事を固く約束させられて、明日退院する。





「ケンジ!」


病室に戻ると、俺の診察を律儀に待っていてくれたケンジに駆け寄った。


「おかえり。」


優しい笑みを浮かべる姿が嬉しくて、抱きつきたい衝動にかられたが、ここは病室。四人部屋だ。

グッと我慢しながら、迷惑にならないようにそっとカーテンを引くと、


「あ、のさ、明日退院出来るって。」

「本当?」
「うん。」


「良かった」と、心底嬉しそうに微笑まれ、たまらず俺も笑みをこぼした。




…正直、俺は焦ってたんだ。



どんなに一緒に居たくても、二人で居れる時間には期限がある。

まだ高校生。
九月になれば新学期が始まるし、まさかここから通わせる訳にはいかない。

もちろん、会おうと思えば会えるだろう。
しかし、今みたいな自由は無いだろう。



ケンジだって、ちゃんとわかってる筈だ。



新学期の前日までには戻る事を約束していたケンジと、二人で過ごせる時間は、あと一週間しかなかった。



だから、今の時間を出来るだけ大切にしたいんだ。



[次へ#]
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!