…8。
楽しいはずなのに楽しくなくて、ケンジの笑顔が嬉しいはずなのに、嬉しくない。
モヤモヤする気持ちを飲み込むようにちびちびと缶の縁に口を付けても、それはなかなか胸の奥には引っ込んでくれないみたいだ。
…なんか、味がわかんない。
久々で美味しいはずのアルコールが美味しく感じられない。
目の前では、絡み上戸のヨシキがケンジを挟んで、カイリの口に無理やり酒瓶を突っ込んでいでて、
「おら!遠慮すんな飲み干せ!」
「ちょっ!ジンロ直飲みはキツっ、グホっ…!」
「はぁ!?何これ!止めた方がいいのか!?」
最早恒例行事になっているその風景はケンジには勿論はじめてで、オロオロとこっちに助けを求めてくる姿に苦笑いした。
「大丈夫、大丈夫。」
「カイリ結構強いから。」
動じない俺達にケンジが不安げな顔を向けながら、
「でも、」
「止めたいならヨシキを酔いつぶれさせるしかないぜ?」
いつもは誰も止めない所業を止めるべく、言われた通りヨシキに酒を進め出したケンジにアオイが心底楽しそうだ。
「……。」
「楽しくない?」
突然声を掛けられて肩を揺らすと、前を向いたままのアオイが俺にだけ聞こえる程度の声で話し掛けてきた。
「…楽しいよ。」
「嘘吐きだな。」
「……。」
アオイのこういうサラッと見破って突っ込んでくる所が苦手だ。
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