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…1。
『向き合う気持ちと潜む影』






俺が自分のアパートに戻ったのは、それから数日後の事だった。


「へ?いいの?」


退院の許可は、通院を約束に案外あっさりと下り、
迎えに来てくれた車の中で、てっきり家に戻る事になると思っていたので思わず両親に聞き返してしまったほどだ。


「ちょっと家がゴタゴタしてて…。邪魔だからアパートに戻りなさい。」なんて。
何この女王様。
まあ、別にいいけどさ。


俺は、近くの病院への紹介状と荷物を持つと、そのまま車でアパートに向かっていた。
両親とケンジと、一緒に…。





あの翌日、もしかしたら来ないかもと思っていたケンジは、いつも通りに現れた。


「おはよう、兄貴。」
「…おは、よ。」


それがあまりにも普通で、昨日の事がまるで無かったみたいで…。


…言えないじゃん。


例えばヨシキに聞いた後、すぐにケンジに会えていれば違ったかもしれない。
けど、一晩じっくり考える時間があった俺は、その分臆病になってしまった。



『俺ら付き合ってたの?』
『なんで教えてくれなかったの?』
『無かったことにしたかったから?』
『…忘れた事、怒ってる?』


聴きたい事は沢山あって、それでも喉元から外に出ることはない。



『寝ぼけてんの?んなわけないじゃん。』
『俺ら兄弟だよ?気持ち悪い。』
『…嫌いだよ…』


思い浮かぶのは拒絶の言葉ばかりなのは、それだけケンジの存在が大きいからだ。
俺は、ケンジの口からそう紡がれるのが怖かった。






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あきゅろす。
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