…17end。
「…寝てるの?」
ガラリとスライド式のドアが開き、声を掛けてきた人物に顔を上げた。
「…母さん。」
入ってきたのは母さんで、ドアの後ろにケンジの姿を探したがいなかった。
「ケンジ出てったんだけど、会わなかった?」
「ええ、さっき。先に帰るって。」
「……そう。」
…なんだ、帰ったんだ。
誤解されたまま帰ってしまった事は悲しかったが、同時にホッともした。
勿論、どんな顔で会えばいいかわからないからだ。
…会いたいけど、会いたくない。
そんな感じ。
「どう?調子。」
声を掛けられ、一瞬遠いところに行っていた意識を戻すと、
「ん?絶・好・調。」
本当に絶好調。
傷もほとんど痛まないし、意識を取り戻してからだんだんと慣らされてきた食事も、今はすっかり通常食に落ち着いている。
点滴もない。診察だって簡単な会話と背中の怪我を診て貰うくらい。
もう本当、退院してもいいんじゃないかと思う位だ。
…あ、聞き忘れた。
ふと、ヨシキは付き合っていた事までしか教えてくれなかったのに気が付いた。
その事が衝撃過ぎて、結局なんで入院したのか、知らない。
どうして俺は、忘れてしまったんだろう。
忘れるほどの、何があったんだろう。
いきなり黙った俺を怪訝そうに見つめる母さんを見上げると、
「俺さ、いつ退院出来るの?」
「…退院したい?」
素朴な疑問に帰ってきたのはまさかの質問返しだ。
「うん。多分…。」
曖昧になってしまったのは不安だからで。
「…………じゃあ、聞いとく。」
労るような笑みを浮かべる母さんは、一体どこまで知っている?
知らない事ばっかりで、俺は自分がどこまで知るべきなのかもわからなかった。
胸の中が、頭が、心が。
苛立ちと焦りでぐちゃぐちゃで、
「…どうすればいいのかな」
呟いた言葉は無意識で、だから母さんの、何か言いたげな視線に気付いていても、何も言えなかったんだ。
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