14…。
両親にカミングアウトをしたのは、中学三年の夏だった。
同類には同類がわかる、なんて嘘だと思っていたが、ありがち嘘とは言い切れないらしい。
当時の俺は、2つ年上の中学の先輩と付き合ってて、キスしてるとこを母さんに見られた。
混乱する母さんに「異性に性的欲求が持てない」と告げた時の、絶望ともとれるあの表情は今でもまだハッキリと覚えてる。
それでも、他の人が同性に性的欲求を感じないように、俺は異性に感じないんだと話し合い、それを受け入れて貰えた時、本当にこの人達が親で良かったと心から安堵したんだ。
「…コウジは、駄目よ。」
くるくるとスプーンで茶色の液体を混ぜながら母さんが言った。
「んなの、わかってる…。」
その言葉に、俺の想いが見透かされている事を覚ったんだ。
わかってる。
わかってた。
始めから無理な事だと、ちゃんと自覚していたんだ。
それでも止められなかったのは、全部自分の所為。
コウジを巻き込んだのも、全部。
でも、記憶のなくなったコウジはすべてをリセットしてしまった。
俺は、リセットされたコウジを再びこっちに引き込む事なんて出来ない。
「…わかってるよっ」
ぐちゃぐちゃに胸の中を掻き毟って、俺の中の記憶も想いも全部取り出せたらいいのに。
―…でも、好きなんだ。
心の中で呟くと店を出た。
突っ込んだジーンズのポケットで数枚のお札を握り締めて、噛んだ唇に鉄臭い味を滲ませて。
「……」
回していたスプーンを脇に置き、ひとつ溜め息をもらすと、
「…仕方ないじゃない…」
ポツリ呟いた母さんの声は、俺の耳には届かない。
小さな気泡を上げて小さくなった氷が、殆ど減っていないグラスの中で微かに揺れた気がした。
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