[携帯モード] [URL送信]
11…。




エレベーターを降りると、正面玄関の前で溜め息を吐き立ち止まった。


…鞄忘れた。


あの中には携帯電話や財布、コウジの着替えが入っている。
携帯や着替えはいいにしても、財布が無ければ帰れないだろう。

病室の二人を思い出して唇を噛むと、もういっそ歩いて帰ろうか、なんて少し無謀な事を考えてみる。

歩けない距離じゃない。
バスと電車では遠回りな道をまっすぐ突っ切れば夜までには着くかもしれない。


ただちょっと戻って鞄を取ってくればいいだけなのに、わざわざ疲れる方を選んでしまうのは、肉体よりも精神が未熟だからだ。

まさか、病室でどうこうなるとは思いづらいが、戻った時二人が寄り添っていたら、なんて想像するだけでどす黒いものが体から溢れてきそうだ。



険しい顔で風除室を抜けると、

「ケンジ?」
声を掛けられて肩を揺らした。


「どうしたの?こんなところで。」
「……母さん。」


母さんは、手ぶらで病院を出て行こうとする俺に首を傾げると、

「どこ行くの?鞄は?」

当然の疑問だ。



「あー…、」

何かいい言い訳はないかと頭を巡らせて、でも、今の俺には何も思い付きそうにない。


「…ちょっと、コ…兄貴と喧嘩して…」


喧嘩というよりは、一方的に逃亡を図ったと言った方が正しいかもしれない。

けど、そうとしか言えない自分に苦笑いすると、


「顔合わせづらいから、電車代かして?」
「……まあ、いいけど。」


少し間を空けてからの了承にホッとすると、出されたお札に手を伸ばした。




[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!