…16。
深い溜め息を吐くと、誰もいなくなった病室で寝転んだ。
ヨシキは、戻ってきたアオイ達とさっき帰ってばかりだ。
「また来るね。」
なんて、にこやかに手を振るカイリの頭に、たんこぶらしきものが出来ていた気がするけど気にしない。
多分アオイあたりにやられたんだろう。
ひとりになった途端、真っ白にコーティングされた部屋がやけに白々しく感じてならなかった。
まるでそれは、失った俺の記憶みたいに、今までの出来事や感情を白で塗り潰そうとしてるみたいだ。
…ケンジが戻ってきたらどうしよう。
あれからまだ、ケンジは戻ってきていない。
鞄はあるし戻ってくるはずなんだ、けど…、戻ったケンジに何を言えばいいんだろう。
俺達が付き合っていた事をヨシキに教えて貰った、なんて、どの面をさげても言えそうにない。
だって俺が忘れているんだ。
ケンジが何も言わなかったのは、元の俺が忘れたいって思ってると感じたからなのかもしれないし…。
「情けないな。」
ポツリ呟いた。
付き合うなんてリスクの高い事、簡単な気持ちで自分がするとは思えない。
それなのに忘れてるとか、まるで自分がどうしようない駄目な人間に思えてくる。
無くなった記憶(ぶぶん)に中途半端にはまったピースは、まだ隙間だらけなままだ。
とにかくただ俺は、ケンジに早く会いたいと感じていた。
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