…9。
混乱と苛立ちに呆れを含みながら、二人を見て溜め息を吐いていると、
「わかった。…コウジ」
「あ?……んっ、んん!?」
名前を呼んだヨシキが、いきなり唇を塞いてきた。
「ちょっ、やめ…」
「…黙れ、」
「ん、…ぁ…」
両手で挟むように頬を持たれ、容赦なく口の中を蹂躙される。
俺達の隣で息を飲んだケンジが逃げるように病室を出て行く気配を感じながら、ヨシキから離れたくて必死に突っぱねたがビクともしない。
…やだ。
何だろう。凄く嫌だ。
舌に絡まる感覚も生温い唾液も、俺の知ってるものじゃない。
「違、」
…違う。
本当に恋人同士だったのか?
ジクリと胸が痛んで、じわじわと視界が涙で歪んでいく。
「ふぁ…っ」
泣き出した俺に気付いたヨシキが、ゆっくりと唇を離したと思うと俺を抱き締めた。
「…忘れてんじゃねえよ…!」
押し殺した声がダイレクトに胸に響いて、震えた肩が泣いているみたいだ。
「…ヨシキ…?」
「何度も振りやがって、俺が傷付かないなんて思うなよ、」
その声は辛そうで、震えていた。
「…教えてやるよ…」
だから、離れたヨシキが涙ぐんで、その口から紡がれていく言葉に、俺はただ真っ白なシーツを握り締める事くらいしか出来なかったんだ。
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