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2…。




「…どこまで覚えてんの?」


震える声で尋ねた俺に、一瞬首を傾げたコウジがゆっくりと話し出した。


「…っと…、アパートで…ヨシキとアオイ…あ、大学とダチと麻雀してて…」


そうちょっとバツの悪そうに答えたコウジに胸の中が張り裂けそうなほど苦しかった。




コウジの話では、俺がコウジのアパートに行ったあの日、訪ねる直前の記憶まではあるらしい。
けど、それからの俺との日々が頭の中からすっぽりと消えていた。


医者の話によると精神からくるもので戻るかどうかはわからないそうだ。



「…本当に、覚えてない?」
「しつこい。」


あのキスも?
告白も? セックスも?

ふたりでケーキ食べたり、プールで溺れたり、おんぶして帰ったり。
迷子の俺を探してくれたのも、バイクで出掛けたのも、俺達が恋人同士になったのも…?


全部言葉にして聞きたかったけど、聞けない。


ふたりの思い出が消えてしまっのは苦しいけど、事件の事も忘れているのはコウジにしてみれば『幸せ』だから。



実際に目覚めたと聞き駆けつけた両親は、コウジの記憶が抜け落ちている事に驚いたが、どこか安心しているみたいだった。


事情聴取にきた警察も記憶喪失はどうする事も出来ず、幼く知識のない自分にはよくわからないけど、数回質問を済ますと仕方なく帰ってしまった。

もちろん、「記憶が戻る事があれば連絡をお願いします」と堅く言付けられて。



結局コウジの記憶は、夏休みのある日、バイトに向かう途中事故に遭い今まで昏睡していたというものにすり替えられ、
祖母ちゃんの死も全部、寝ている間に過ぎた出来事になってしまった。



「…退院したら、祖母ちゃんの墓参りに行きたいな…。」

悲しそうに目を伏せるコウジの手を握り、

「一緒に行こう。」
と笑いかけるとちょっと困った顔をして「うん」と頷く。



寂しいけど、それだけでもう、満足だよ。




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あきゅろす。
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