…3。
昔話をしようと思う。
本当に昔。
まだ俺が生まれる前の話だ。
父さんと母さんは同級生で、小中高と同校だった。
父さんと母さんは仲が良かったが付き合っていた訳じゃない。
母さんはずっと好きだったらしいが、少なくとも父さんが夢中になったのは別の女だった。
初めてふたりが離れたのは大学の時。
そこで父さんは、人生最大の恋愛をする。
名前は、知らない。
聞きたいとも思わない。
ただ、魅力的なひとだったらしい。
父さんと彼女は深く愛し合った。
まだ学生なのにも関わらず結婚を考える程だ。
優しいけど芯の強い父さんは彼女にプロポーズをし、彼女はそれを受けた。
凄く凄く幸せだったと思う。
ふたりは結婚し、暫くして妊娠が発覚して、彼女は大学を辞め専業主婦になり、父さんは大学に残り勉強の傍ら、バイトに明け暮れたんだ。
子供が産まれて暫くは凄く幸せだったらしい。
温かい家庭。
温もりに溢れる生活。
けどそれは、彼女には退屈でつまらないものだったんだ。
父さんが稼いだ金で買い物三昧。育児を放棄して遊びまわるようになり、子供のまわりで煙草を吸って毎日酒を飲んで、挙げ句の果てに男を自宅に連れ込んだ。
ふたりの間には深い亀裂が入り、それは最早修復不可能なものになっていった。
結局、女は俺を置き去りにして出て行ってしまった。
テーブルに離婚届を置き、金目の物を全て持ち出して。
それが、俺の母親。
まだ1歳にも満たない俺を捨てた、母親だ。
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