…5。
荷物を持って、あてがわれた部屋に入った。
二階の一番奥の部屋。
昔俺達が二人で使っていた部屋だ。
「…懐かしいね。」
「ん。」
机も二段ベッドももうないけど、確かにそこには昔があって。
「コウジ。」
名前を呼んだ唇が、優しく押し当てられ、すぐに離れていった。
「…俺がそばに居るから。」
真剣な目で見つめられ苦笑いすると、
「大丈夫だよ。もう子供じゃないんだから。」
それでも、その手を握り締めたんだ。
「ケンジくーん!ちょっと頼みたい事があるんだけどいい?」
階下から名前を呼ばれたケンジが俺を見た。
「荷物片付けたら俺も行くよ。」
「いってらっしゃい」と手を振って、居なくなったのを確認すると二人の鞄のチャックを開けた。
半分しか血が繋がってなくても、俺達は兄弟なのは事実で。
あの女に顔が似ている事でコンプレックスもある。
もしかしたらケンジは俺が好きな訳じゃなくて、そばに誰もいない自分を憐れんでるだけなんじゃないか。
それを好きと勘違いしてるだけなんじゃないか。
そんなわけないと首を振っても、中々消えてはくれない考えに唇を噛んで熱くなる目頭を押さえた。
喪服をハンガーに掛けてシワを伸ばして、
パン、パン…
「……っ、」
それでも我慢なんて出来ないよ。
「…最低だ…」
どうしても消えない後ろめたさと後悔に、うずくまって泣いたんだ。
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