…6。
昼前に両親と帰ってきた祖母は、白い布団に寝かされ、顔に布を被せられた。
次々に手を合わせていく親戚を見ながら、俺は怖くて近付けずにいたんだ。
「…遠かったでしょう?」
疲れた顔をした母さんに首を振って、
「母さんこそ疲れただろ?…少し休んだ方がいいよ。」
「大丈夫よ。……ごめんね。」
目尻の皺を深くして眉を下げる母さんが俺の手を握ってくれて、久々に触れたその手は小さくて細かった。
「…癌だったのよ。気付いた時は手遅れで、お祖母ちゃんは延命を望まなかったの。」
二階の部屋に呼ばれた俺達は、母さんの前に座り話を聞いていた。
「言わなくてごめんね。」
悲しそうに謝られ首を振ると、隣に座るケンジが俺の服の裾を掴んだ。
「…言って欲しかった。」
母さんに真っ直ぐに告げるケンジは、怒っているのか眉間に皺を寄せてて、
「お祖母ちゃんに絶対言うなって言われてたのよ。
…それでもいつまでも内緒にしてたくなかったから、お盆には来るように言ったんだけど…。
間に合わなかったら同じよね。」
「……」
何も言えなくなったケンジが黙って下を向くと、
「…ケンジ、ごめんね。」
「っ、」
涙が滲んでいく顔を見られまいと部屋を出て行くのを、母さんと二人で見送ったんだ。
「お祖母ちゃん子だったからな」
「…それと、お兄ちゃん子ね。」
少し茶目っ気を含んだ言葉に見た母さんは、真剣な顔で俺を見つめていた。
「コウジ。」
「……はい。」
「色々辛い思いをさせるかもしるないわ。」
言わんとしている事はわかってる。
来た時の叔母の態度を見てもそうだ。
俺はよく思われていない。
ちゃんとわかってる。
散々向けられた悪意の目を葬儀が終わるまで浴びなくてはならないのも、それを回避するすべがない事も。
「…大丈夫。たった三日だろ?」
にっこりと笑って返すと、母さんも笑い返してくれた。
「周りが何と言おうとコウジは私の可愛い息子よ?
気合い入れていけよ!」
バチンッ!
「イテ!」
勢いよく背中を叩かれ声を上げると、「私も!」なんて自分の両頬を挟んでいる。
…本当、頼もしいお母様で。
少し気持ちが楽になって、二人で笑ったんだ。
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