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…8。




「コウジくんはエラいねぇ。こーんなにちっちゃいのに。」


突然、エレベーターの中で指を豆粒ほどに開けて言い出したおじは本当に面白い。


「ひどいなぁ。おじさ」
「お兄ちゃん!」

「…お兄ちゃんより背は低いですが、平均ぐらいはありますよ。」

「駄目です!おじさんなんて呼ぶ人の話は聞きません!」


…相当酔ってるな。



すぐ隣でコテンと首を傾げているおじは、180pはありそうなスラリとした三十代。

今は頬を赤く染め酒臭い息を吐いてはいたが、確かもっとピシッとした感じの人だった気がする。
何の仕事をしているのかも、正直名前すらわからなかったが、人懐っこい雰囲気や口調に、


…こんな兄がいたら楽しいだろうな。


そう、ほんの少し思ったんだ。




三階に着いて、部屋の鍵を開けた。
その頃にはおじは目が開いてるかもよく分からないくらいに身を預けてきてて、


「お邪魔、しまーすっ…!」


ついつい重さで変な声になってしまったが、誰もいない部屋に声を掛けると、玄関におじを降ろした。


「んんー…コウジくん、水持ってきてぇ〜。」

「…はいはい。」


勝手に廊下を進み、綺麗に片付いた広い部屋をつい見回しながら、キッチンでグラスに水を汲んだ時だ。


ガシ。
ガシャンっ!


「わっ!」



突然両腕を後ろに取られ、持っていたグラスが流しで割れた。

…何だ?


強い力で振り払う事が出来ず、そのまま紐のようなもので縛り付けられ、


「……馬鹿だな。」


耳元でした声に背筋が凍り付いたのがわかった。



何が?
なんて聞きたいけど、混乱と恐怖で言葉が上手く紡げそうにない。


とっさに身体をぶつけて逃げようとしたが、両手が塞がれたままの俺にはドアを開ける事も出来なかった。


「…酷い事するなぁ。痛いじゃいか。」
「っ」

ゆっくりと近付いてきた声に息を飲んで、


「助け…!」


助けを求める声は、腹を殴られた衝撃で意識と共に儚く消えていったんだ。



…ケンジ、助けて…




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