…10。
ぎゅっ。
シャンプーの香りが鼻腔をくすぐる。
もちろん上半身は裸だから、俺の頬はしっとり吸い付くケンジの生肌に触れている。
バクバクとうるさい心音が耳の中で響いて…。
なんかもう、世界中にこの音しか存在しないと錯覚しそうだ。
「ケン…ジ?」
放してと続けたかったが、更に強く抱きすくめられて、
ケンジの顔が俺の髪に埋められていく。
「っ、ケン…!」
「煙草臭い。」
「?」
あっさり放したコウジは、来た時に見せた不機嫌そうな顔で眉間に皺を寄せて。
「コウジ、煙草吸うんだ。」
「え?あ、うん…。」
大した量じゃないけど、確かに吸う。
「でもこれは、バイト先の臭いが移っただけで…!」
なんで言い訳してんだろ、俺。
「ふーん。」
もう興味がなくなったと、一人で「いただきます」をしてカレーを食べ始めたケンジに唇を尖らせて。
…なんだよ。
近付いたと思ったら離れていく。
お前、一体何がしたいわけ?
納得出来ないのはなんでだろ?
本当は、もっと…てて欲しかったから?
ぐちゃぐちゃと渦巻く嫌な感情で、とにかく酒でも呑みたい気分だった…。
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