…9。
「え?お兄ちゃん、謝る事はあっても謝られる事なんてないよぉ!」
情けないが必死に手を振る俺に、ケンジがナイロン袋を差し出し。
…あ。弁当買ってきたんだった!
「知らなかったから、カレー作っちゃった。」
眉間にシワを寄せて斜め下を見る仕草が可愛くて可愛くて!
いや、違う。
「弁当なんていいから!ケンジのカレーの方が嬉しいよ!」
…本当、美味そうだし!
「…プリンも。」
「プリンは冷蔵庫に入れておけばいいだろ?明日食べればいいじゃないか!」
…くそ。可愛過ぎる!
「違くて…。」
コンビニの袋を脇に置くと、冷蔵庫を開けて何かを取り出した。
「?」
影になってよく見えないが、少し大きなそれは、もしかして?
「俺も甘いの買ってきてたから。」
テーブルの真ん中に置かれたのは、生クリームたっぷりのホールケーキ。
チョコレートのプレートには『Happy birthday!』と書いてある。
「ええ?」
…ちょっと待て?
この流れだと、俺の誕生祝いみたいだけど、俺の誕生日はもう過ぎたよな?
生憎、俺は梅雨生まれだ。
今は夏真っ盛りだし。
「誕生日。祝えなかったから、ケーキぐらいは買ってやろうって。」
…マジで?ケンジが俺の為に?
嬉しさが溢れすぎてどうにかなっちゃいそうだ。
感動で震える体で思わずケンジに抱き付くと。
「ケンジ!ありがとう!お兄ちゃん嬉し…」
「って母さんが。」
「………はい?」
「“母さん”が。」
スロー再生で巻き戻すみたいにそろそろと体を離した。
けど、ケンジの手が俺の腕を掴んで。
「ま。…だし。」
小さくて聞き取れなかった言葉は何だったのだろう。
わからないまま、次の瞬間俺はケンジの腕の中だった。
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