『佐藤くんと鈴木くん』 『テスト』 side・鈴木 「…ここは?」 「ここの数式使って…」 放課後、 もう誰もいなくなった教室で俺達は、いつの間にか恒例になってしまった勉強会に机を挟んで向かい合っていた。 「関数は代入すればいいんだよ。」 「なんだよ、“だいにゅう”って…。」 「えっと…、代入は…」 正直俺は他人(ひと)に何かを教える事に向いていない。 成績だって中の下だし、ノートだって黒板をただ丸写しするだけなのだ。 なのに… クラスメートで不良の佐藤は、いつもテスト期間になるとノートを借りにくる。 『ノート貸せよ。』 しかもその態度は横柄だ。 「ああーっ!もうわかんねぇ!」 案の定、 俺の拙い説明では理解出来ない佐藤が、傷みきった脱色し過ぎの髪を掻きむしって嘆いている。 「…ごめん。」 既に日は傾きかけた教室で、茜色を反射した髪が揺れた。 「…俺、馬鹿だから上手く教えられなくてさ…」 元々頭がいい佐藤は、勉強だってちゃんとすればしっかり点の採れる分類だ。 実際にテストになると何故か教えている俺よりもいい点を採っていて… 「あのさ、…前から思ってたんだけど、もっと頭のいい奴に教えてもらった方がいいんじゃないかな?」 そしたらもっと成績だって上がるだろうし。 …ちょっと、寂しいけど。 苦笑いでそう言うと、 佐藤が微妙な顔をした。 「あ?…いいんだよ、お前で。」 何言ってんだよと、溜め息を吐いて俺を見た佐藤は、 「ほら、アレだよ。頭のいい奴の考える事なんかよくわかんねぇし。」 何だかよく分からないフォローをしてガシガシと頭を掻いた後、遠くを見ながらポツリと言った。 「それにな、…お前は特別なんだよ。」 「!」 耳まで真っ赤にして照れたその顔に、自分の顔が熱をもっていくのを感じながら見つめていると、 照れ隠しのつもりなんだろう。 「見んな!」 「イテッ」 ゴンッ! 加減を知らない一撃に頭を押さえると、更にそのまま机に押し付けられて今度はおでこがいい音を立てた。 「あ、わりぃ…」 「……」 正直、相当痛い。 …だけどそれよりも、さっきの言葉の方が効いたみたいだ。 「?…なんだよお前…」 肩を震わせている俺の髪に触れた佐藤が、 「クソ。…笑ってんじゃねーよ。」 今度は優しく頭を撫でた。 痛みなんか吹っ飛ぶ程の居心地の良さで、いつまでも笑い続ける俺に、 「明日もちゃんと教えろよ。」 「…ラーメンで手を打つよ。」 しゃーないなって佐藤が笑った。 end。 2009/2/26 *緒神 [戻る] |