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『佐藤くんと鈴木くん』
『チャーシューとシナチク』
side・鈴木




「ぃらっしゃいっ!」

独特のアクセントを付けて、のれんをくぐった俺達を出迎えたのは、佐藤の行き着けのラーメン屋だ。


テスト勉強の帰り、約束通りにラーメンを奢ってもらう事になった俺は、佐藤に連れられてこの店にやって来たのだが…

お世辞にも綺麗、とは言い切れない小綺麗な店内で、タオルを頭に巻いた男臭そうな髭オヤジが作るラーメンは、
…美味いのか?


恐る恐るその麺を口に運ぶと、


「…美味い。」
「何だよ、美味いに決まってんだろ?」


俺の行き着けだぜ?
ってクシャと笑う佐藤が、自分のどんぶりからチャーシューを一枚持ち上げた。


「ほら。ここのチャーシュー、すっげえうめーの。」


俺のどんぶりへと移動してきたチャーシューは、どうやら佐藤の好物らしい。

「いや、悪いよ。」

そうじゃなくても佐藤の奢りなのだ。
その上、好物まで奪っては申し訳ない。


「いいから、黙って食え。」

自分から話し掛けたクセに理不尽な事を言う佐藤の予想以上に優しい笑みに、何だか赤くなりそうだ。

「…どーも。」
「おう。」


熱いのは湯気の所為だ。


「あ。じゃ、コレやるよ。」
自分のどんぶりから移したのは、俺の大好物のシナチクで、

「何、お前。シナチク嫌いなの?
…美味いのに。」

素直に受け取った佐藤は、そう言って口へと運んでいく。


…違うよ、“好き”だからだよ。

でも、そう口にしたら佐藤は食べずに戻してしまうだろう。


「さーね。」

だから内緒にして、その口に運ばれるのをこっそり見つめていたんだ。





「また来ようぜ。」
「うん。」


帰り道の暗い空の下、隣を歩く佐藤の髪は月明かりを浴びて輝いていた。



end。

2009/3/1 *緒神


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