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捧げ小説
『ひなたぼっこ』
(c)wain items.
マーブル・デイズ




こんなに天気のいい日は、ひなたぼっこに限る。

…って、言ってたのに賛成したのは俺だけど。


授業をサボった俺達は、お菓子にペットボトル、それに暇つぶしの雑誌もしっかり持って、二人で屋上に寝そべっていた。



「くー、かー…」


規則正しい寝息を立てて、いつの間にか寝入っているのはヤスだ。


…無邪気な顔がムカつく。
他人(ひと)の気もしらないで。

目を細めて口元を引き上げると、ちょっとだけ芽生えたイタズラ心でヤスの鼻に手を伸ばした。


「…」
「……」

「………」
「…………」


…おかしい。
普通は苦しがったりするんじゃないか?

鼻を摘んだ所為で酸素を吸入出来ない筈のヤスは、何故か何の反応も示さない。



つまんないと手を離すと、

「…ふがっ!」
「!!」

その瞬間に大きく吐かれた息に大きく肩を揺らした。



「……」
「んー…、くー、かー」


…こいつは。


予想外に驚いてしまった事に照れながら、それでも起きようとしないヤスの耳に今度は息を吹きかけると、


「んっ…ん」


寝返りを打ちながらのやけに色っぽい声に、自分が墓穴を掘った事に気が付いた。



「…ヤス?」

改めて耳元で囁いたが、やっぱり熟睡しているらしい。

また規則正しくなった寝息を確認してからもう一度囁く。


「……ヤス、好きだよ。」



柔らかそうな耳たぶを甘噛みして、

「ヤス。」
頬。


「ヤス。」
首。


最後に、心臓の上に置かれた左手に唇を落とすと、
止めた。



「…不感症かよ、馬鹿。」


全然反応を示さないという、不満すぎる結果にふてくされながら隣に寝そべると、
こんな不毛過ぎるひと時でさえ愛しく感じるであろうこれからに、ゆっくりと目を閉じた。



こんなに天気のいい日は、ひなたぼっこに限る。


ぽかぽかと温かい陽射しの中、瞼の向こうが光を浴びて、太陽色に染まっていた。



***



「トモ、トモ!」


気持ち良さそうに眠っているトモは、揺すっても叩いてもなかなか起きない。


「ト〜モぉ。起きろよぉ!」


ひなたぼっこに誘ったのは俺だけど、
…先に寝ちゃったのも、俺だけど!

気持ちの良すぎる昼寝のおかげですっかりリフレッシュした俺は、身も心も絶好調だ。


「トモぉ。暇だよ、かまってよ!」

「スー、スー…」
既に雑誌も読み終わって、ペットボトルだって一気した。
お菓子だって、トモの分まで食べちゃったのに…。


「トモ!トっ、」



トモの寝顔があまりにも気持ち良さそうに見えて、


「……」

何だか起こしてしまうのがもったいない気がして止めた。



…しゃーないな。


溜め息を吐きながらもう一度横になると、

「?」
固いコンクリートの寝づらさに今更気付いて雑誌を敷いてみる。

…なんか違う。


他に枕になりそうなものを探すと、

…あった!


「えいっ!」
ゴンッ。
「てっ!」



枕代わりに見つけたトモの腕は、引き抜いた拍子にトモが激しく頭をぶつけるという結果を何故か導いて。


「…てへ?」
「……」

目を覚ましたトモを苦笑いで誤魔化すと、


「おはよう、トモ。」

「…痛い。」


呆れたような溜め息をこぼした、おまえと見上げた空は青かった。


end。

2009/1/25 *緒神

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