…58。 むにゅ。 いきなり頬を摘まれて驚くと、 「…何、思い出し笑いしてんの?むっつり〜。」 にやにやと意地悪な笑みを浮かべた氷吾が俺を覗き込んでいた。 「……男なんて大概むっつりスケベなんだよ。」 払う事もせずそう返すと、ちょっと驚いた後すんなりと手を離して、 「認めちゃってるし。」 一瞬見えた顔が、なんだか切なく見えたのは気のせいだろうか。 そのまま歩いて行く氷吾を立ち止まったまま見つめた。 「……。」 …なあ、氷吾。 心の中で呼んでみる。 聞こえるわけないけど…。 「…っ」 だけど、タイミング良く振り返った氷吾は坂の上から手を振って、 「早く来いよ!」 …なあ、氷吾。 あれは、俺の夢だったのかな。 「…お前、足早いよ。」 面倒くさそうに俯いて歩き出したが、本当は凄く泣きたかったんだ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |