『不意打ちパンチ』 『氷吾×勇気・本編前』 …打ち所が悪かったんだ。 「いってーっ」 平手打ちをくらった所為で、切れてしまった口元を抑えながら呟いた。 「自業自得って、氷吾の為にある言葉だと思う…。」 「はぁ?俺悪くないよぉ!」 呆れ顔の勇気に抗議すると、返ってきた「馬鹿だな」の一言に更に頬を膨らませた。 だいたい、いつだって悪いのは俺になる。 浮気しただのなんだの…、そんなつもりはこれっぽっちもないのに! 俺はいつだって本気だし、すべての女子を平等に愛してるんだ! 「…死ねばいい…」 「!!」 あんまりの言われように振り返ると、そこにあったのは俺よりも不機嫌な勇気で、 「…どうしたんだよ。」 「別に。」 どこから見ても“別に”という顔じゃなかったが、今に始まった事じゃない。 最近ずっと続いている不機嫌は、なんかもう“マジで嫌われているんじゃないか”と思う程だ。 「…勇気ってさー。」 「あ?」 「俺の事嫌い?」 「…!」 素朴な疑問をぶつけてみた。 「………ぇ、え?」 …なんだよ、その動揺。 なんだよ、その間! ぶっちゃけ、すぐ返ってくると思っていた「そんな事ない」の言葉が無くて、聞いた事を後悔した。 「…なんだよ、」 気分が悪くて仕方ない。 「もー、いいですぅ!いいですよ、聞きませんよ!悪かったなっ!」 「……」 子供の癇癪のように怒鳴り散らすと、近くの雑誌で顔を隠すように寝転んだ。 …くそっ、地味にヘコむ。 俺が黙った所為で静かになった室内は、時計の音が響くだけだ。 二人っきりの重苦しい雰囲気に溜め息を吐いて、せめてテレビでもつけておけば良かったと…今更ながら思った。 手を伸ばせば届く範囲にはあるが、わざわざつけるのはなんだか抵抗がある。 …いつまで続くんだろう 沈黙の長さが辛くなってきた頃、 勇気が動くのを気配で感じた。 「……」 「……」 動き出した勇気が真っ直ぐ向かったのはドアだ。 …何にも無しかよ。 カチャ、とノブを捻る音がして、ゆっくりとドアが開くのがわかる。 帰るんだろうと思考の隅っこで気にしながら寝返りを打った。 たぶん、これで勇気との友情は終わる。 幼なじみって、案外こんなもんなのかも…。 嫌だな。 聞かなきゃよかった。 自分の浅はかな言動に心底後悔して、予想以上に勇気が好きだった事に、悲しくなって目を閉じた。 「……好きだよ。」 音を立ててドアが閉まった。 「え?」 勢いよく起き上がり急いでドアを開けたが、階段を駆け降りる音が聞こえるだけで勇気の姿は既にない。 不意打ちだろ…! まさか返ってくるとは思わなかった「好き」の一言に、凄い早さで体温が上がっていく。 平手打ちより強いパンチに、 「ばぁーか、…俺もだよ。」 顔が熱いのも口元がにやけるのも、全部クサイ演出の所為にして…、 窓の外を真っ赤な顔で走っていく可愛いアイツに呟いた。 end。 2009/2/13 *緒神 本館キリリク。 [次へ#] [戻る] |