…22。hiroshi
それはずっと昔の話。
物心ついた時から両親は共働きで、朝から晩まで幼稚園に預けられて、
俺が泣いたら母さんが困る。
俺が拗ねれば父さんが怒る。
そんなこんなで顔面にべったりと張り付いたのは笑顔の仮面で、すでに外し方なんて忘れちゃったよ。
そんな時、俺はアイツに出会ったんだ。
アイツは同じ幼稚園で1人で遊ぶ寂しいやつだった。
いつも無表情で何を考えてるかわからなくて、
なんとなく、目について。
なんとなく、気味が悪いと思っていた。
だから、水道で独り膝を洗う姿を見た時、なんで声を掛けたのか自分でもよくわからない。
今思えば、はじめからずっと気にしてたんだとわかるけど。
園の庭で転んだのかその膝には派手な擦り傷があって、後から後から溢れ出る血をただ無言で洗い流していた。
…先生に言えばいいのに。
結構大きな擦り傷で、痛いはずなのに一言も喋らず、表情も変えないのは何でだろう。
好奇心に仮面を被って偽善者面で声をかけた。
「大丈夫?」
俺の言葉に一度も視線をよこさないソイツは、ただ一度小さく頷いて傷口を睨み付けている。
…変なやつ。
素直に痛いって言えばいいのに。
多分、だからだ。
俺が興味を持ったのは。
「本当は痛いんでしょ?一緒に先生のトコ行こう?」
俺の言葉に今度は顔を向けて、じわじわの涙を溜めるソイツに、
…ああ、見つけた。
そう思ったんだ。
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