…1。 ダンッ…! 足を踏み込む音とバシッと竹刀を叩きつける音がして、それと共に凛とした声が武道場内に木霊した。 「めぇぇん!」 「!?」 …あ、なんや打たれたかも。 見事な面を受けたのは、実際自分じゃなくて雑魚部員だったけど、確かに俺は決められたみたいだ。 心臓にずきゅんと。 それが、俺、五百蔵尊(いおろいたける)と藤原直文(ふじわらなおふみ)との出会いだった。 ここは、山間にある私立学園だ。 全国から男ばっかりの集まる学校は、一部で超が付くほど有名だったりする。 まあ、名物と言っていいのかわからないけど、有名の一つはゲイが多いって事で、例外なく俺もそっちの分類になる。 そんな感じで、男の俺が同性を追い回してても特に誰も気にしない。 そういうのって結構ありがたいかもしれない。 「藤原ー!」 いつものように名前を呼んで飛び付くと、当たり前みたいに竹刀で叩かれた。 「いったぁぁ〜!何しよん〜。そんな物騒なもんしまっといてんか〜。」 「うっつぁし!」 叩かれた頭をさすりながら抗議すると、今日も直文はそっぽを向いて行ってしまう。 「…へこむわ〜。」 …なんて、全然へこんでへんねんけどな。 すでに日課になったこの行動も、初めはもっとささやかなものだった。 勿論名前なんて知らなかったし、声だってほとんど聞くことすらなくて、毎日毎日武道場に通いその姿を眺めてるだけ。 俺には似合わないくらい乙女チックな行動だけど、それはそれで楽しかった。 だから、 「…見学ですか?」 直文から掛けて貰った声に、本当に嬉しかったんだ。 「…ぃや〜、別にぃ…。」 「そうですか。失礼しました。」 だから、ぺこりと綺麗なお辞儀をして武道場に戻る後ろ姿に思わず駆け寄ると、 「!?」 「あんたのコト好きなんやけど。」 あの時の呆けた顔は今でも忘れられない。 …その後、凄い勢いで逃げられたけど。 [次へ#] [戻る] |