…10。 「どうぞ」と偉そうに招き入れると、「失礼します」なんて丁寧に断りを入れてくる。 ただ、クスクス笑いで「すっかり先生だね」とか言われた所為でちょっと恥ずかしくなった。 「これ、お土産。」 ナイロン袋を渡され受け取ると、 「ありがとう。麦茶でいい?」 来客用に使っているパイプ椅子を出すと、冷蔵庫から作り置きの麦茶を出してグラスに注ぐ。 お礼を言ってグラスを受け取った夏兄は、よく冷えて小さな水滴をつけるグラスを見つめると、「懐かしいね」って呟いた。 「麦茶なんて、久々に飲むよ。」 言われてみれば水出しパックの麦茶なんて、お金持ちがわざわざ作って飲むようなものじゃないかもしれない。 職員室に置かれてる珈琲もちゃんと豆から挽かれたものだし、お茶系は○○産の高級××茶とか俺でも知ってるようなメーカーの缶入り紅茶とか。 正直、ここに来て初めて飲むようなものばかりで、自分ではまだ美味く入れられない。 …そうだよな、夏兄ももうそっちが当たり前なんだよな。 共働きで鍵っこだった小学生の俺は、よく夏兄の家に預けられていた。 ごくごく普通の家で、昔はよく並んで麦茶を飲んで笑い合ってたっけ。 「…いつ振りだろ?昔は良く飲んでいたのに、」 懐かしそうに目をふせる夏兄を見て、少しだけ目を細めた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |